第27話 鬼の狙いと長兵衛さんの決断


 鎖骨鬼が裏切ったということは、こちらの情報は首謀者に筒抜けって事になるか?

 島の人質が解放された事も当然バレてる。

 こちら人数とか戦力とか……軍隊が来るかも知れない事とか。

 あ……、僕が地図を持っているのも知っているのか!?


 赤鬼ジョンと黒鬼が殺されなかったということは、彼らを人質として利用するつもりかも知れない。いずれ首謀者は僕の持っている地図を要求してくるか奪いに来るだろう。

 吉備津彦尊様には申し訳無いが、船乗り全員を助けるのは無理かも知れない。

 地図を手にした鬼達が国を荒らしまくるなんてバッドエンドは嫌だもんな。

 何はともあれ地図は肌身離さず持っていた方が良さそうだ。


 ふと心配になって、鎖骨鬼が持っていた鉄砲があるか?とヴェネツィア人商人たちに聞いてみた。

 屋敷の船員達を回収するまでは屋敷へ持って行かず、オレ達が屋敷に殴り込みを掛けるまではここに置いてあるはずだ。

 ヴェネツィア人商人たちが確認してみると確かにそこにあった。

 ……ならばこれで応戦出来るか。


 ついでに弾と火薬がどこにあるのか聞いてきたら途端に慌てだした。

 鉄砲と一緒にあったはずだが、無くなっているらしい。

 ……やはり鎖骨鬼の仕業か。


「モモタロウ様、大丈夫でしょうか?」


 キギスが心配そうな顔をして聞いてきた。


「楽観は出来ない。だが悲観もしていない」


 マンガかアニメで見たセリフを言ってみたが、この時代の人には心に刺さるみたいだ。

 少しだけ安堵の表情を見せた。


 実際に状況は良くないが、所詮相手は5人。

 洞窟に捉えられていた人質を解放したから、いざとなったら島民も味方になってくれる。

 時間さえ稼げれば、2、3日で片付けられるはずだ。


 向こうでは島民Aのカミさんが魚を炭火焼きしていた。囲炉裏で炙ればいいかとも思うのだが、炭火で焼いた魚はまた一味違うらしい。命の恩人ということで、お・も・て・な・しされている。

 木炭って粉にしたら鉄砲の火薬に似ているからイケるかな? と思い立ち、島民Aに木炭を粉にして貰うよう頼んだ。

 弾だったら、投網の錘とかでどうにかなる様な気がするし。


 夜食の焼き魚を持ってきたカミさんにも、

「申し訳ないが、長兵衛さんのところへ伝言をお願いしたい。

 相手に作戦が漏れてしまって襲撃が失敗したと。

 あと飛び道具を持っているから近づくな、とも言っておいて欲しい」

 と、頼んだ。


「あいよ、分かった。モモタロウ様」

 島民Aのカミさんがそそくさと家を出ていった。


 さて、オレ達は持久戦に入る準備をしよう。

 当面は、各々役割分担して、相手の動向を見つ、隙を見つけたら攻め込む。

 そして人質の赤鬼ジョンと黒鬼を助ける。

 ヴェネツィア人商人たちに変わり番子で敵の屋敷への見張りを頼み、僕はゴロンと寝転んだ。


「お前達もカラダを休めておけ」

 とマサルとキギスに声を掛けた。


 ◇◇◇◇◇


 ウトウト眠りに付いた所で長兵衛さんがやって来たので、休んでいるマサルとキギスに気づかれない様、そーっと奥の座敷へ長兵衛さんを案内した。


「モモタロウ様、また村は鬼共に蹂躙されるのでしょうか?」


「たぶんそれは無い」


 僕の答えに複雑な面持ちで長兵衛さんが聞いてくる。


「何故そう言いきれるのでしょうか?」


「作戦が漏れたのは、こちら側に寝返った鬼の1匹が裏切ったからだ。

 オレは鬼達に7日後、千人を超える軍隊が討伐に来ると言った。

 だからこの島に残るのは危険だと考えるはずだ」


「ならば何故早々に立ち去らないのでしょうか?」


 僕は抱えたバッグを開け、地図を見せた。


「連中はこの地図をオレが持っていることを知ってしまったんだ。

 この地図があれば鬼共は何処まででも逃げ遂せるし、何処へでも攻め込むことが出来る。

 だから連中は死にものぐるいでこの地図を手に入れようとするだろう、とオレは考えている」


「それならば鬼にその地図を渡してしまえば、鬼は去るのでは?」


「たぶんこの島を出ていくだろう。

 そしてこの地図を元に、鬼達は大軍の仲間を引き連れて再び襲いに来る。

 次は島ではない。

 国全部だ。」


「それは確かなのですか」


「残念だが間違いない。

 鬼供の国は天竺インドを支配して、搾取の限りを尽くしている。

 黒鬼のいた土地アフリカでは、鬼達が人を動物の様に狩って奴隷として売買している。

 この国をそうしないためにもこの地図を渡す訳にはいかないんだ」

 

 長兵衛さん、話が大きくなり過ぎて付いていけなくなっている様だ。


「知っての通り凶悪な鬼が3匹いる。

 1匹は始末した。

 残り2匹も討つ。

 従う鬼も容赦しない。

 だがな、オレは鬼でもなければ外道でもない。

 昼間見ただろう?

 鬼達が土下座して謝る姿を。

 心を入れ替え、行いの良い鬼達には国へ帰る道筋だけ教えて、ここ出て行って貰うつもりだ。

 そのためには島の者達の協力が必要なんだ」


 長兵衛さんは深く考え込んでじっとしたまま。

 何分か経ってようやく口を開いた。


「モモタロウ様のお考えは十分分かりました。

 しかしながら鬼が改心するとはワシには思えないのです。

 息子を殺した鬼共が……」


 島民を屈服させるために鬼達は見せしめに島民3人を殺したと、島民Aから聞いた。

 その一人が長兵衛さんの息子、洞窟で案内してくれた女の子のお父さんだと聞いている。


「長兵衛さんの気持ちは最もだと思う。

 この世界では人の命は軽い。

 昨日までピンピンしていた人が呆気なく死ぬ。

 下らない理由で殺される人もいる。

 握り飯欲しさに人を殺める奴もいる。

 だからこそ、オレは人を、鬼を殺したくないんだ」


「この世界?」


「あぁ、オレはこの世界の者ではない。

 神仙の國から来た。

 鬼を退治するため。そして鬼を助けるためにここへ来た。

 分かって貰えないだろうが、オレは皆んなに生きて欲しいんだ」


 長兵衛さんは再び深く考え込んでじっとした。

 そして意を決して答えた。


「大変申し訳ないのですが、ワシが判断するには事が大き過ぎます。

 領主様にこれまでの経緯を含めて報告にあがり、判断を仰がせて頂きたく存じ上げます」


 そう来るか……。

 ここって讃岐の国の島だから僕は余所者だ。

 体良く追い出される未来しか見えない。

 だけど村長が言っている事は最もだ。

 人質も解放出来たし、吉備津彦尊様との約束が無ければ僕もそれに従っていたと思うし。


 ん~~~~~~~~~~~~~~~。

 よし決めた!

 今夜中にケリを付けよう。

 僕はモモタロウ。鬼退治のためこの世界にやって来たんだ。

 こうなった以上、島民の協力なしで戦うしかない。


 ますます足枷が増えてきた。

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