決戦!鬼ヶ島
第26話 決行! 裏切り!
全ての段取りを終え、未の刻(午後2時)から夕刻まで仮眠を取った。
昨夜は3時間くらいしか寝てないから、少しでも体力(HP)を回復したいからね。
時間になると島民Aのかみさんが起こしてくれた。
よくよく考えてみると、人質だった女性達は酷い目にあっているはずだ。
あの下衆な宣教師が何もしなかったなんてあり得ない。
この時代の貞操観念がユルい事がせめてもの救いだが、現代感覚が抜けない僕には辛そうに見えてならないし、どんな言葉を掛ければ良いのか分からない。
考え事してじっと島民Aのかみさんを見てしまっていたら…
「ヤダよー、お侍様ったら。
そんなに見つめられるとジュンてしちまうよぉ」
と言って
ホントのところは分からないが、僕がどうこう出来る問題ではなさそうだ。
傍らでキギスがジト目で僕を見ていた。
辺りが薄暗くなって、時間は夜7時過ぎって感じだ。
もう少ししたらとっぷり日が暮れて夜になるだろう。
夜になったら命のやり取りをするんだ、と現代社会では有り得ないシチュエーションとそれに馴染んでいる自分に違和感を感じる。
今朝、宣教師を斬った感触。
人質だった島民の表情。
偵察で見たゴツい鬼の姿。
村で待っている爺さんと婆さん。
現代の父さん母さん……。
次から次へと止めどもない想いが浮かんでは消えてく。
きっと今の僕は不安で堪まらないんだな。
考えても仕方がない。とにかく準備だ!
赤鬼ジョンのいる部屋へ様子を見に行った。
『Good Evening, Momotaro.』
鬼達はやや緊張した面持ちで僕を見た。
言葉が不自由な上、僕らは素人軍団だ。
綿密な計画を立てるは難しいので、出来るだけシンプルな作戦を立てた。
1. ひとまず海賊を出迎え、全員屋敷に入る。
2. 首謀者2人以外、船員5人と黒鬼を屋敷の外に連れ出す。
3. 船員5人はここへ連れてきて赤鬼ジョンが説得する。
4. 首謀者2人だけが残った屋敷にオレ達が踏み込む。
6. 失敗したら屋敷に火を放つ。
7. 首謀者が屋敷から出てきた所を鉄砲で狙い撃つ。
自分でも驚く過激な作戦だ。
全員で腹ごしらえして、最終決戦に臨んだ。
◇◇◇◇◇◇
昨夜と同じくらいの月明かりの中、海賊の船は入り江に入って来た。
海賊船と言うには貧弱だから、『海賊の船』だな。
少し離れた場所に錨を下ろし、しばらくしたら小舟に略奪してきた食料などを積んで沖合へやって来た。島に居た鬼達が小舟を迎え、荷運びを手伝う。
黒鬼の姿もあった。
たぶんこれがいつもの作業なのだろう。
あの食料は農家が苦労して育てた作物だ。
こっちの世界に来てから婆さんを手伝って僕も農作業に明け暮れている。その苦労も知らない西洋人達が略奪する姿を見ていると、吉備津彦尊様との約束とはいえ本当に許していいものなのか迷うよな。戦いが終わったら必ず賠償させてやる、と自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。
小舟が何往復かしたあと、最後に首謀者の二人を載せて上陸した。
スペイン船の船長と航海士だそうだ。
スペイン船、というのはもう片方の船がポルトガル船だからだ。
元々スペイン船がルソンから明を目指し、ポルトガル船は明からブルネイを目指して航行していた。
この時代の覇権を争うスペインとポルトガルの両国だが、嵐に遭遇して航行不能となっていたスペイン船を同じ嵐でボロボロになったポルトガル船が曳航して何とかたどり着いたのがこの島だった、と赤鬼ジョンが言っていた。
通りで国籍がバラバラだったハズだ。
実際にはこの島にたどり着くまであれこれあったらしいけど、僕の英語力では理解できなかった。
屋敷に全員が入るのを見届けて、あとは手筈通り主簿以外の鬼達が外へ出るのを待った。
1時間、2時間・・・・おかしい、中々出てこない。
突然、門がバン!と開け放たれるとヴェネツィア人商人たちとイギリス人船乗りが飛び出してきた。
同時に、
ターーーン!
と鉄砲の音がした。
何があったのか分からないが作戦が失敗したのは間違いない。
茂みに隠れていた僕達は手を振って逃げる連中をこっちに呼び寄せた。
その時、もう一発
ターーーン!
と音がして、近くの茂みの枝が弾け飛んだ。
明らかに僕達を狙い撃った一発だ。
しかし状況が分からない。
ひとまず皆を引き連れて島民Aの家に戻った。
◇◇◇◇◇
この中で唯一英語を話せるイギリス人船乗りに状況を説明して貰ったが、半分も聞き取れない。発音が英会話スクールで習ったのと全然違うんだ。
それでもゆっくりゆっくり身振り手振りを交えて説明させた。
まとめるとこんな感じ。
・鎖骨鬼が裏切った。
・赤鬼ジョンと黒鬼が捕まった。
・他の船乗り達は首謀者に従っている。
……といったところか?
二人が捕まったのなら屋敷に火を放つのは無理だ。
他の船乗りが従っているのなら敵は黒鬼を除いた5人+鎖骨鬼。
しかも5人は海賊の実行部隊。加えて鉄砲が二丁。
屋敷には食料が十分にある。
さっきまで心のどこかで楽勝だと思っていたけど、思い通りにはいかないものだ。
絶望的な気分に頭を抱えたいところが、今は頭をフル回転させるべきだろう。
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