【間話】吉備津彦命様の後悔と『桃太郎』の秘密
****** 吉備津彦命様の独り言です ******
モモタロウよ…。
すまぬな、モモタロウよ。
我は其方に言っておらぬ事がある。
其方の今のその身体、それは我が与えし『桃太郎』の身体なのだ。
この桃太郎の世界が出来た時、我は我の分身たる『桃太郎』に強さを求めた。
我も武神の端くれ。
強さこそが正義であり、力があればどの様な難題も解決できる。
そう信じていた。
『桃太郎』は刃物も通らぬ強靭な肉体を持ち、武を極めた無双の超人としてこの世界に降臨した。
それゆえ『桃太郎』は鍛錬などせず鬼ヶ島へと行き、苦もなく並み居る鬼共を旬滅してしまうのだ。
モモタロウよ。
其方が歌っていた童謡『桃太郎』には続きがあるのを知っておるか?
♪そりゃ進め そりゃ進め
一度に攻めて 攻めやぶり~
つぶしてしまえ 鬼が島~
おもしろい おもしろい
のこらず鬼を 攻めふせて~
ぶんどりものを えんやらや~
ばんばんざい ばんばんざい
お伴の犬や 猿 雉は~
勇んで車を えんやらや~♪
『童謡:桃太郎 (初出1910年)
作詞:不詳、作曲:岡野貞一』
この詩を聞いて呆れる其方の顔が目に浮かぶようだ。
しかし我はこの詩の違和感に永らく気付かなかったのだ。
強き者が悪党を懲らしめるのは当然の事。
強き者により支配される事でこの世は平定される、それがこの世の理だ。
勝った者が見返りを手に入れる事に何の不都合があろう。
我はずっとそう思っていた。
だが『現代』において、幾多の正義が存在し、己が正義を振り回し、他の正義を蹂躙する姿を見聞してようやく我が間違いに気付いたのだ。
『桃太郎』はその圧倒的な肉体の強さ故、他人に頼ることも生きる苦労も知らなかった。
家来はおれども友は無かった。
人の形をしておるが、人の心を持っていなかったのだ。
だが、今の其方の身体は常人の身体だ。
走れば息が切れる。
殴られれば痛い。
切られれば血が出る。
あえて超人ではない、現代の其方と全く同じ身体を其方に与えたのだ。
その結果がどうなるのか我にも解らぬ。
ただ其方には…、『桃太郎』には、人であって欲しかった。
人の心を持った『桃太郎』であって欲しかったのだ。
其方の4年間の鍛錬の日々を我は見てきた。
現代の価値観、お人好しともいえる優しさを他人に分け与えてきた其方の行いを我は見てきた。
モモタロウよ。
この先の結果を全て其方に委ねよう。
我はどの様な結末も受け入れよう。
そして願わくば……
其方にはこの世界で幸せになって欲しい。
ただそれだけだ。
追伸.
もう一つ、我は其方に言っていない事があった。(´>∀<`)ゝテヘ
『主人公補正』という力は無いことは無い。
しかしそれは"必ず"では無いのだ。
256分の1の偶然。
ゆめゆめ頼り切りにするのではないぞ。
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