【間話】その頃、村では……
****** モモタロウの上役・妹尾十郎右衛門視点 *******
「お頭 、モモからの手紙には何と記されておりましたかな?」
縁側で柴山の爺さんと二人で白湯を啜っていると、爺さんが興味深そうに聞いてきた。
「賊の根城のありそうな島を絞り込んだそうだ。
その島に渡って賊が本当にいるのか調査する、とあった」
「ほぅ、モモの奴、キチンと役目を果たしているようじゃのう」
爺さん嬉しそうだな。
孫の成長を喜ぶジジィそのものじゃねぇか。
戦場で何人も人を斬った鬼神には見えねぇな。
「詳しい地図付きの報告でな。
この地図を献上するだけでも報奨が貰えそうなくらいだ。
正直、ここまで綿密に調べられるとは思ってなかったぜ。
……なぁ爺さん。
モモタロウは何故この地へやって来たと思う」
「藪から棒に何を言うんですんじゃ。
モモが密偵であるとまだお疑いなので?」
「あんな目立つ密偵が居て堪るか。
やる事なす事全て別格だ。
貴重な米と見たことも無い芋3つと交換した時はなんてバカな真似を、と思った。
だがろくに手入れをしていない土地でも収穫出来るし、育てるのが簡単で、しかも美味い。
おかげでこの冬、村の連中は飢え知らずだった。
普通の子供にゃあんな決断は出来んよ。
頭はずば抜けて良いし、腕もたつ。
うちの倅の参謀に是非欲しい人財だ」
「モモを高く見立ててくれて何とも光栄な事じゃ」
嬉しそうに爺さんが笑う。
爺さん、孫バカにますます磨きが掛かってるぞ。
「だがよ、モモタロウは神仙の出だろ?
いずれは帰るとか言ってないのか?」
「婆さんがそれを何度も聞いとる。
婆さんはモモが可愛くって仕方がないからのう。
モモは『故郷へは二度と戻れないと思う。オレがここへやって来たのは、たぶんオレがモモタロウだから。』と寂しげに答えたそうじゃ」
なんだそりゃ?
童子のクセに重い事言うのお。
「まあ、今更探った所で何も分かるまい。
当面はモモタロウが調査を終えるのを待つんだが、困ったことになりそうだ」
「モモが何か仕出かしましたか?」
「いや、モモタロウの仕事は問題ない。
むしろ完璧だ。
問題は海賊の住処のあるという島だ。
その島は讃岐国を取り仕切る香西様が統治される島だ。
そこへ俺達が攻め入るというのは言わば他領へ戦を仕掛けるのと同じになる。
要するに勝手に手出しが出来ん!」
「どうなさるおつもりで?」
「モモタロウの調査結果とその証拠を持ってお館様に直訴するしか無かろう。
証拠のついでに賊の首でも持ってきてくれれば万事解決なんだが 、流石にそれは無理難題だ。
坂田金時や武蔵坊弁慶の様な英雄でもなければな」
「無茶言わんで下さい。
ああ見えてモモはまだまだ子供なんじゃ。
婆さんの話じゃと、あやつ未だおなごの手を握った事も無いそうじゃ」
「ああ、この仕事が終わったら嫁を紹介してやろうか?」
「婆さんの話じゃと、村の若いおなごの殆どがモモに惚れているそうじゃ。
若様よりモテるらしいぞ」
「けっ!言ってろ。
『あと10日ほど待ってくれ』と"童貞の"モモタロウの手紙にあった。
次の報告を待つとしよう」
ふっ……モモタロウには既に嫁候補を紹介済みだしな。
※解説:領地について
拙作で鬼ヶ島として想定している女木島と隣りの男木島は、四国本土の豪族、香西氏の領地でした。その後、香西氏の一族の高原次利の所有となり、江戸時代は天領となりました。
16世紀前半から天下統一までの間、中国四国地方は動乱の時期を迎えます。この時代を生きるモモタロウの活躍を想像するのも楽しいだろうと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます