第25話 協力するか、しないか、どちらかを選べ!

 残る課題は鬼達への説得おどしだ。


 鬼が占拠していた屋敷の一室に鬼6人を集めた。

 後で知った事だけどこの屋敷は長兵衛さんの家らしい。

 申し訳ないが、残りの首謀者2人を討伐するまではしばらく辛抱して貰おう。


 赤鬼ジョンが書いたメモによると鬼達の内訳は、

 赤鬼ジョンと船乗りの1人がイギリス人、

 3人がヴェネツィア人の商人、

 鎖骨を折った奴がポルトガル人の船乗り、だそうだ。


 ちなみに宣教師はスペイン人だとメモにあった。

 宣教師というよりは黒衣を着た奴隷商みたいな奴だったみたいだ。

 どんな悪事をやってきたのかもメモに書いてあったが、あまりの外道ぶりに訳すのを諦めた。

 貴重な電子辞書の電池残量をこんな事に使いたくなかったからだ。

 そして海賊行為は、船で村を荒らしに行ったスペイン人らが煽動しているとの事らしい。


 縄で縛り上げていては交渉が出来ないから、赤鬼ジョンから鬼達に言い聞かせて縄を解いた。

「協力すれば助けてやる。そのための話し合いだ」と。


 赤鬼ジョンの説得が行き届いているせいか鬼達は大人しい。

 もっとも武装しているマサルが連中の後ろで刀を構えているのだから、騒いだらタダでは済まないことを重々承知しているはずだ。

 赤鬼ジョンの通訳を通じて、僕は鬼達に提案した。

 提案と言うより一方的な最後通告に近いけど、気にしたら負けだ。


『オレは英語が少しだけ話せるが、難しい会話は不可能だ。

 だから簡単シンプル明快クリアーに言う。


 首謀者リングリーダーズの3人、宣教師を除く2人を我が国の決まりによって処罰する。

 本来あなた達も同罪だが、あなた達は遭難者サバイバーだ。

 故に死罪デスセンテンスは酷だと思う。

 だからあなた達はこの国を出ろ。

 これはオレの独断ドグマティックだ。


 オレの提案を断るのなら、1週間後1000人を超える本隊がここに来る。

 オレが居ても居なくても本体は来る。

 この島が海賊の本拠地ベースである事はバレているからだ。

 そしたらあなた方は必ず全滅オールキルドさせられる。


 オレに協力するか、しないか、どちらかを選べ。』


 ふー、電子辞書で作成した文章を一気に読み上げた。

 間違って無いかな?

 あと電子辞書の電池残量がかなりヤバい。


 鬼達はお互い顔を見合わせ、何か言いたい事有りそうな様子だ。

 堪らずにヴェネツィア人の1人が発言した。


『遭難者である我々にもう一度遭難しろと言うのか?

 我々はどうやって帰ればいいか分からないのだ』


 ……と赤鬼ジョンが英語で通訳した。

 予想通りの返答に、僕は現代から持ってきた地図帳の中の日本地図を広げた。


『これを見てくれ。

 これはこの近海の地図だ。

 ここがこの島の位置だ。』


 精巧な地図の存在に全員の目が見開かれた。

 次に東アジア近隣のページを開いて説明を続けた。


『ここがマラッカ、あなた達の本来の目的地だと聞いた。

 我が国は更に北にある。

 この地図は20 000 000分の1の縮尺スケールで描かれている。

 この地図を使えば正確な方位ディレクション距離ディスタンスを知ることが出来る。』


 ヴェネツィア人の質問が続いた。

 元の世界でもこんなに一生懸命英語を考えて話したことは無かったよ。


『この地図はよく描かれているが、正確なのか?』


 その質問にヨーロッパのページを広げて見せた。


『ここがあなた達の国だ。

 見覚えがあるだろう。

 オレ達は世界中の地理を正確に把握している。』


『……信じられない。

 テムズ川の位置までも正確に描かれている。』


 赤鬼ジョンも通訳を忘れて地図を見入っていた。

 母国を遠く離れて最果ての地に流された先でまさか母国の地図を目にするとは、感慨深いものがあるんだろうな。

 鬼達の目に涙が光っている。

 これが本当の鬼の目に涙か?


 しばらく沈黙が続いたが、ベネツィア人の1人が

「シッ!」と叫んだ。

 それに続いて他の2人も興奮気味に何かまくし立てているけど何言っているのか全然分からない。

 鎖骨を折ったスペイン人もなんか言ってるし。

 一体どっちの意味なのと思いながら赤鬼ジョンの方を向くと……、


『彼らはYESと言ってます。

 私達は国に帰るんだと言ってます』

 ……と目に涙を溜めて赤鬼ジョンが答えてくれた。


 ◇◇◇◇◇


『あなた達がやらなければならない事は2つある。

 ひとつ、島の人々に謝罪すること。DOGEZA方式だ。

 ふたつ、今夜海賊を捕まえるのに協力すること。具体的には首謀者の2人から他の船員らを引き離せ。

 オレ達が首謀者2人を討伐する』


『イエッサァー!』


 説得してキビダンゴを食わせた鬼達はスッカリ僕の言う事を聞くようになり、連携がスムーズになった。

 そして島民達へ一件一件回って土下座させた。


「モウシワケ ゴザイマ センデシたっ!」


 日本人よりはるかに体格の良い西洋人に土下座されて島民は戸惑うことしきりだったらしい。

 もっとも島に残っていたのは荒事が苦手な連中なので、人質に無体な事はしていなかった様だった。

 鎖骨を折ったポルトガル人、名前を聞く気もないので『鎖骨鬼』と呼ぶけど、宣教師は鎖骨鬼をボディガードにして悪さを重ねていたと、人質だった島民Aのおかみさんから聞いた。

 当然、鎖骨鬼も人質らに嫌われていて、蹴りを見舞われて折れた鎖骨の痛みにのたうち回った。まだ熱が引かなくて辛そうだけど自業自得だ。

 外洋に出るためには万全の準備が必要だ。そのためにも島民の協力が欠かせないからな。


 こうして今夜の決戦に向けての下準備はあらかた終わった。

 ふと気がつくと、昨日の出来事を思い出しても身体が硬直する様な事もなく、吐き気もない。

 精神的に持ち直せてきたのが自分でも分かった。

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