第24話 決戦に向けた根回し

 慌しかった夜が明け、日が昇り、ひとまずは一段落……出来なかった。

 やらなきゃいけない事がいっぱいなのだ。

 それに昨日の事を思い出すとまた胃から迫り上がってくるものがある。

 あれこれ考え込みたくないので、身体を動かして自分自身を誤魔化したかったのだ。


 まずは洞窟にいる人質を迎えに行かなきゃ。

 島民Aに頼もうとしたら、洞窟のことを知らなかったのだ。

 島民が知らない洞窟を外国人である鬼がどうして知っていたのか不思議だったけど、鬼達は海賊である前は冒険者だったらしいから島中を探索したのだろうな。

 島民に洞窟の存在が知られてなければ、人質の隠し場所としては理想的だ。

 仕方がないので、洞窟の場所を知っている赤鬼ジョンと地元民の島民A、そして僕の三人で洞窟へ行くことにした。


 マサルには島民Aの家に残り、縛り上げた鬼達の見張りを頼んだ。

 変な動きをしたら躊躇なく斬れと言い残して。


 山道を歩く事30分、洞窟の前に人質だった人達が居たので大きな声で呼び掛けた。


「待たせた〜。

 島にいた鬼はみんな捕まえた。

 安心して家に戻ってくれ〜」


 人質だった女子供は一斉に歓喜の声をあげた。

 そして牢屋に閉じ込めていた二人の鬼も回収した。

 鎖骨を折った方の鬼は熱を出してフラフラだったみたいだったが 、我慢して貰うしかない。

 僕を鉄砲で撃ったのが奴だったと聞いてたから、手加減するつもりは毛頭ない。

 自慢じゃないが、僕の心は狭いんだ!


 人質の中に一人、足腰の弱いお婆さんがいたので僕が背負って山道を進んだ。

 こちらの世界に来てから僕の婆さんは掛け替えのない人だ。だから同じようなお年寄りを見ると何かせずにはいられない。

 それにこの時代の女性は皆小柄で体重が30kgちょっとしかないから全然重くないし。


 これがもしお母さんだったら……


 もしお母さんだったら、重くていいから1度はおんぶしてあげたかったな。


 ◇◇◇◇◇


「村の代表者の身内はいるか?」


 山道を進む途中、ふと思いたってみんなに質問を投げかけた。


「アタイのおじいちゃんは肝煎きもいりよ」


 そしたら幼い女の子が手を挙げて答えた。

 しっかりした子だなぁ。


「じゃあ一緒にお爺さんの所へ行こう。

  ご挨拶をしておきたい。

  鬼がどうなったのか話さなきゃならないし」


「鬼はどうなったの?」


「島に居た鬼は皆捕まえた。

 船で出た鬼達が今夜戻ってくるからもう一戦戦って、やっつける」


「鬼に勝てるの?」


「大丈夫だ。

 島に居た鬼はみんなこの赤鬼みたいに降参したんだ。

 悪い鬼はオレが懲らしめてやる」


「おじちゃん、格好良い!」


 グハッ!( ゜∀゜):∵

 鉄砲に撃たれた時よりもダメージでかい!


 ◇◇◇◇◇


 村に戻り、そこで一先ずは解散だ。

 捕まえた鬼二人は赤鬼ジョンに任せて、マサルがいる島民Aの家へ連れていって貰った。

 山道ではおタミさんが始終心配そうな顔をしていたので声を掛けておいた。


「おタミさん、黒鬼は決して悪い様にはしない。

 今夜オレ達が悪党を討つから、明日になれば黒鬼は悪さから解放される」


 その言葉を聞いて、幾分か楽な表情になり、家へと帰っていった。

 僕はお婆さんを家に送り届けると、孫娘と島民Aの3人で肝煎のいる屋敷へ行った。

 肝煎のいる家に着くと、女の子の家族らしき人達が飛び出してきて、女の子を抱きしめた。

 女の子も大泣きだ。

 家の入口におじいさんがいたので島民Aと一緒に近づいて行った。


「肝煎様、このお方が鬼共を命がけでやっつけて、人質を助け出してくれた人でございます」


「備前の軍役衆、妹尾十郎兵衛が家臣、モモタロウと申す。

 殿の命により鬼退治の先発隊隊長を仰せ付かった」


「これはこれはご丁寧に。

 恐れ多いことです。

 ワシはこの島とりまとめをやっております長兵衛と申します。

 この度は誠にありがとうございました。

 島の者を代表しまして御礼申し上げます」


 僕の改まった自己紹介に、長兵衛さんは深々と頭を下げてお礼をした。

 ホントは武士ではなく農民兵見習いみたいな立場なんだけど、お頭がお殿様に海賊退治を命じられたのも事実だし、三人だけとはいえ僕が先発隊隊長なのも事実。

 村の長でもある長兵衛さんの方が身上なのかも知れないけど、長兵衛さんが勝手に勘違いしているだけだ。

 僕は悪くない。


「島の鬼は7匹のうち5匹を捕まえて小屋に閉じ込めている。

 1匹は屈服し、オレに従っている。

 もう1匹は救いようのない悪党なので斬った」


「若侍様はとてもお強い方で御座いますなぁ。とても心強く存じ上げます」


「この者(島民A)が鬼退治を手助けしてくれたんだ。

 この者の手助けがなかったら、解決しなかった。

 こちらこそ、礼を言いたい」


「もったいない言葉で御座います」


「さて、これからのことについて話をしたい。

 残る鬼はあと6匹。連中は今夜島へ帰ってくる」


「私どもでできることならばなんでもお手伝い致しましょう。

 島は戦場になるのですか?」


「心配しなくていい。

 奇襲を仕掛けて一網打尽にする。

 それと鬼との戦いの最中は皆家の中でじっとして欲しい。

 外にいる者は鬼の仲間となし、斬らねばならぬ」


「承りました。

 島の者に徹底します。」


 長兵衛さんは少し青ざめていた気はするが、これくらい言っておかないと危険だ。

 何はともあれ島民への根回しは完了した。



 ※解説:肝煎とは

 肝煎は村の長であり、年貢納入の取りまとめや村民の萬ごとの管理責任を行う立場で、主に東北地方で使われる言葉です。

 女木島に肝煎が居たかは定かではありません。

 創作上の理由から、『庄屋さん』というと江戸時代っぽく聞こえるので肝煎としました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る