第22話 反撃開始だ!

 ひとまず牢屋から人質全員を出した。

 女子供だらけだ。

 特に怪我をしたり弱っている人は居ないみたいなのを確認して、全員に呼びかけた。


「みんな、聞いてくれ!

 俺達は鬼退治するため、この島にやって来た先発隊の者だ。


 島を占領した鬼は全部で13匹だ。

 そのうちの6匹が船で島の外へ出ていて、今、島には鬼が7匹残って居る。

 見ての通り、2匹はやっつけた。

 牢屋に入れられていた赤鬼のジョンは味方だ。

 島には残りあと4匹いる。

 今夜中にそいつらをやっつければ、明日戻ってくる鬼達の船を迎え撃てる。


 しかし、

 皆んなが解放されたと分かると島に残っている鬼達が警戒してしまう。

 早く家に帰りたいのは分かる。

 だけど今夜だけ、明日の夜明けまで、ここに隠れてくれないか?

 事が終わったらここへ迎えが来る様に手配する。」


 僕は人質だった島民に説明したが、返事は無い。

 どうやら理解が追いつかないらしくどう答えていいのか分からないみたいだ。


「黒鬼さんは見かけは怖いけど、良い鬼さんだよ。

 お願いです。

 黒鬼さんを殺さないで。

 お願いします」


 突然、女性の1人が声を張り上げた。


「ひょっとしてあなたはおタミさんか?」


「え? ……そう私はタミ。

 どうして知っているの?」


「黒鬼から聞いた。

 おタミさんが言葉が教えてくれたって。

 安心してくれ。オレは黒鬼の味方だ」


「ゔ……お侍様。

 お願い…します」


 おタミさんは涙を流しながら言葉を絞り出した。

 その様子を見ていた他の人質達も、僕の提案を聞き入れてくれた。

 見張りだった二人を牢屋に入れ、人質だった人には持っていたキビダンゴをあげて、洞窟の出口の近くに待機して貰った。


 今夜中にケリをつけるために、僕とマサルと赤鬼ジョンの3人(+1匹)は洞窟の外に出て、連中の寝込みを襲撃する作戦を練った。


『二人とも無事か?』


「ひでぇ目にあったよ。

 あの黒い着物着たてっぺんハゲ、俺っちを散々殴りやがった。

 あいつだけは絶ってぇ許さねぇ!」


鉄砲アーキバスで打たれて無事だなんて、あなたは何者なんですか?』


『僕は神の加護を受けている。

 日本の神様だ』


 勾玉を見せながら西洋人が好みそうな返事をしておいた。

 まんざらウソでもないし。


『ところでジョン、鉄砲マッチロックは何丁ある?』


『今、島には1丁だけだ。

 残り2丁は襲撃船にある。

  !?

 あなたは鉄砲を知っているのか?』


『たった今 (知ったよ)』


 ニヤリと笑い、自分の胸を親指で指しながら答えた。

 バレバレだけど。


『ひとまず前線基地ベースに戻ろう。

 休憩が必要だ。』


「大将~、二人で喋って俺っちを置いてけぼりにしないで下せぇ~よぉ」


 英語で喋っている僕らの話についていけないマサルがブー垂れる。


 島民Aの家に着くとキギスと島民Aが居た。

 戸が開けっ放しで誰も居ないから何事かと心配していた。


「島民A、人質を救出したぞ」


「ええっ!本当で御座いますか?

 女房は無事なんですか?

 帰ってこないって事はもう死んじまったんですか?」


「大丈夫、みんな無事だ。

 人質を助けたから、これで心置き無く鬼の寝床を襲撃出来る。

 それがバレないよう、襲撃が終わるまでじっと隠れて貰っている」


「モモタロウ様、いや鬼神様。

 このご恩は一生忘れません。

 鬼退治に人手が必要でしたら何なりと言って下さいまし!」


 島民Aは土下座しながら、お礼を言ってきた。

 島民Aの中で僕はすっかり鬼神になっているらしい。

 鬼神はウチの爺さんだよ、と言いたい。


「寝込みを襲うから小人数で動きたい。

 それに鬼は音の速さの石礫いしつぶてを放つ武器を持っている。

 武術に長けた者でも避けられない武器だ。

 人数が多ければ石礫の的が増えるだけだ」


「作用で御座いますか。

 勝ち目はあるので御座いますでしょうか?」


「赤鬼ジョンは見かけ倒しだから、後方で待機な。俺達2人で鬼の相手をする。

 安全なところから支援を頼みたいが 、顔見知りへの攻撃は後々の禍根になるからやめておいた方がいいだろう」


「あぁ、赤鬼さんあっさりやられちまったもんな」


 マサルのツッコミが容赦ない。


「わたくしめに何か出来る事は御座いますでしょうか?」


「島民Aには二つ頼みたい事がある」


「わたくしめでお役に立つのであれば何でも言ってくだえましです」


 それから約1時間ほど話し合って、夜明けまでの3時間だけ寝ることにした。

 僕達もそうだけど、キギスも日帰りで戻ったということは相当無理しているはずだ。

 戦力外の赤鬼ジョンに見張りと起床係をお願いした。



 ※解説:鉄砲について

『アーキバス』は中世ヨーロッパにおける小火器の呼称で、『マッチロック』はアーキバスの一種、いわゆる火縄銃です。

 辞書で『火縄銃』の英語訳を調べると『マッチロック』と出てきますので、上の様な会話になる訳です。

 日本人がイメージする種子島銃は火縄銃を魔改造したもので、命中精度が高く西洋の火縄銃に比べて倍近くの距離からの狙撃を可能にしました。しかし日本は天下泰平の時代を迎えて銃の進化がされませんでした。

 一方、西洋でも命中精度の低いマスケット銃が長く使われ、19世紀のミニエー銃の開発まで大きな進歩がありませんでした。

 もし西洋の銃火器の進歩があと50年早かったら、日本は贖う事が出来ずに西洋諸国に植民地化されていたのかも知れません。

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