第21話 人質を奪還!

 息苦しさの中、自分が鉄砲で打たれた事を理解するのに少し時間を有した、みたいだった。

 どれくらい経ったのか?

 数秒? 数十秒? 数分?

 自分は死んだのか?

 これで2回目なのか?

 次に転生するなら父さんと母さんのそばがいいなぁ……。


 地べたに横たわってそんな事をぼんやり考えいると、何故か自分の意識がハッキリしている事に気が付いた。

 胸に手を当てると血で湿ってはいなかった。

 着物を肌蹴はだいて強い痛みを感じるところを探ってみたら


 ……やっちまった。

『主人公補正』が発動していた。

 吉備津彦尊様から頂いた勾玉に紐を通してペンダントにしていたのだけど、それが銃の弾を弾き返したみたいだった。


「つつっ」


 胸が痛い。二つの意味で胸が痛いよ。

 辺りを見渡すと連中は居なくなっていて、ポチだけが僕の頬っぺたをペロペロ舐めていた。


 連中は僕が死んだと思いこんだのか?

 調べる必要もないと思ったか?

 一刻も早くこの場を離れたかったのか?

 それともポチが守ってくれたのか?


 よくは分かんないけど、何はともあれ命拾いしたようだった。

 主人公補正があったとしても死ぬ時は死ぬし、痛いものは痛い。

 鬼を助けるのも大事だけど、自分の命を大事にしなきゃな。


 襲撃があったばかりの島民Aの家に戻るのは危ないから、ひとまず山へ向かう事にした。

 月明かりを頼りに、山の湧き水の出る場所へ行って休憩した。

 マサルと赤鬼ジョンがどうなったかが気掛かりでならないけど、どこへ行ったのか分からない。

 焦りは募る一方だ。


 だからこそこんな時は腹ごしらえだ!

 ポチにもご飯をあげなきゃ。

 バッグに食料が入っているので、取り出してポチにあげた。

 僕はキビダン……げっ!


 襲撃の際、バッグの中に慌てて突っ込んだ荷物の中にマサルのふんどしが入っていた。

 しかも洗っていないやつ。

 これがマサルの形見だなんて……と思っていると、これの匂いを辿れるんじゃないかという事気付いた。

 急いで自分が鉄砲で打たれた場所に戻って、ポチの鼻先にマサルのふんどしをあてがった。

 ……何かヤダな。


「ポチ、この匂いを追ってくれ!」


 ポチはクンクンと匂いを辿りながら島の北側へ向かって行った。

 練習では上手くいってたけど実戦は初めてだったが、どうやら上手くいきそうだ。

 ポチが匂いを辿って30分ほど進むと、ほら穴? 洞窟? があった。

 そう言えば、現代で『桃太郎』ゆかりの洞窟が観光名所になっていたっけ。

 ここがそうなのか?


 中に鬼が居るかも知れないから、忍者スパイの様に慎重に洞窟の中を奥へ奥へと進んだ。

 マサルの匂いも中に向かっているみたいだ。

 無事でいてくれよ。


 奥の方にぼんやり灯りの影が見えた。


「伏せ!」


 静かな声でポチに命令し、そぉーっと近づくと鬼が2人居た。

 そしてその奥に牢屋らしき木組みがあった。

 どうやら島の人質はこの洞窟に監禁されているみたいだ。

 2人の鬼はカードゲームに夢中らしく、全然警戒していない。


 足音を忍ばせて、洞窟の陰を伝って出来るだけ近づき…… 心の中で号令を掛けて一気に飛び出した。


『一 、 二、 三!』


 鬼達が気付いた時には既に間合いに入っていた。


 ドンッ!


 太刀で鞘ごと胸を突いたつもりだったが、咄嗟に避けられて肩に入ってしまった。

 しかし助走付きで手加減なしの全力フルパワーだ。

 手応えからして鎖骨は逝ったと思う。

 鬼は蹲り動けなくなった。


 もう1人と振り返ると、ずざざざっと後退して僕の刀の間合いから逃れた。

 武器は例の小刀ともう片方の手に灯りの松明を手にしていた。松明と小刀でどう攻撃を仕掛けるのか警戒していると、鬼は松明を桶の水にジャブンと突っ込んだ。

 唯一の光源が無くなって洞窟の中が真っ暗になると、洞窟の出口へ足音が向かって行った。


 バタッ!

 あ、鬼がコケた。

 どうやら相手も見えていないみたいだ。

 逃がしてたまるか!

 援軍が来るのはどうしても避けたい。


「ポチ、ゴー!」


 命令するとポチは物音の方へダッシュで向かって行き、ポチの唸り声と鬼の叫び声が洞窟の中でこだました。真っ暗闇の中、洞窟の出口付近までようやくたどり着くと、そこにはポチに降参するかのように丸くなった鬼が居た。


「ポチ、ステイ!」


 刀を鬼の首筋に当てて、ポチを引き離した。

 鬼はブルブルと震えて戦意を喪失したみたいだった。

 どうやらこの鬼は戦闘要員では無いらしく、戦いに不慣れなようだ。

 こんなでも見慣れない西洋人というだけで、島の人には鬼みたく見えてたんだろうな。


 ◇◇◇◇◇


「大将ぉ~、無事だったんですね!」


 降参した鬼を引き連れ、別の松明を持って牢へ行くとマサルの声が響き渡った。

 その横には赤鬼ジョンも居た。


「心配掛けたな。

 吉備津彦尊様の御加護のお陰だ」


 鎖骨をポッキリやった鬼は抵抗する事なく投降したので、縛り上げた。

 痛がっていた様に見えたけど、きっと気のせい。

 山で集めた柴を何百回と縛り上げた僕の束縛はそう簡単に逃れられない。

 蔦があれば即席の縄も把える。


 これで囚われていた人質とマサル達は無事救出出来た。

 このまま人質を帰して良いのか考えあぐねていると、赤鬼ジョンが僕に話しかけてきた。


『モモタロウ、我々は今後どうするつもりですか?』


『今考えている。

 船で出ていった連中はいつ戻ってくる?』


『彼らはこの場所を知られたくないので、直接戻ってはこない。

 昼間は島陰に隠れて、明日の夜、暗闇に紛れて逆方向から戻ってくるだろう。』


 ……という事は、今夜中にケリをつけるべきだな。


『分かった。今夜中に屋敷を強襲する』


 よしっ、反撃だ!



 ※解説:洞窟について

 先に解説しました通り、拙作では女木島を『桃太郎』の舞台にしており、洞窟も実在し、公開されています。入場料は大人600円、子供300円(2023.8.28現在)です。

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