第20話 鬼供の奇襲

 黒鬼と赤鬼ジョンはキビダンゴを食べてから、帰った。

 かなり気に入ってたみたいだった。

 そして二人が帰ったと同時に……


「大将!あんた鬼の言葉が分かるのか?」


 マサルが唾を飛ばして言い寄ってきた。

 汚ったないなぁ。


「神仙の國では6年間鬼の言葉を習うんだ。

 オレは少ししか習っていなかったから、何とか話せる程度しか分からないよ」


「神仙の國のお方!?

 貴方様は神……いや鬼神様だったんですか?」


 島民Aが土下座を初めてしまった。なかなか収集がつかないよ。

 まさか僕がいう神仙の國が500年後の世界で、吉備津彦命様によって創られたこの異世界へ鬼退治と鬼助けのためにやってきたなんて言っても理解できないだろうし。

 なだめて、すかして、ようやく落ち着いた三人に今後の計画を話すことにした。


「キギス、手紙を渡すからお頭に届けてくれ」


「はいっ!」


「島民A、キギスを船で送り届けてくれ。

 仲間を募ってくれていい。

 大急ぎでだ。駄賃は勢む!」


「ははぁー!」


 いや、土下座しなくていいって。


「マサル、オレと行動を共にしてくれ。

 人質の救出を優先する。

 そして鬼の序列のてっぺんを始末する」


「大将、本体の到着を待たねぇつもりですか?」


「情報もなしに大軍で攻め込むと人質の身が危ない。

 そもそも漁民の人質なんてものの数に入れないだろう。

 だが黒鬼と赤鬼を寝返らせることが出来た今が好機だ。

 てっぺんさえ始末すれば残りは烏合の衆だ。

 あとは本隊に任せればいい。」


「分かった。

 大将にお願いされて断るなんて有り得ねぇ。

 ついて行きやすぜ」


「安心してくれ。

 ブラック企業じゃないから無茶はさせない」


 字を読めないマサルとキギスには悪いが、お頭に出兵を留まらさせる内容の手紙を書いて渡した。これで10日くらいは時間を稼げるだろう。

 そのこの僅かな猶予の間に解決しなければ、吉備津彦命様が望んでいない鬼が全滅する結末バッドエンドになってしまう。

 

 キギスと島民Aは翌日の早朝、出発した。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日の夜、赤鬼ジョンが1人でやって来た。

 また海賊行為を働くために黒鬼は船に乗せられて、行ってしまったそうだ。


 赤鬼ジョンにはノートに鬼達の名前と役割りを書いて貰った。

 特に悪事を率先している3人については外見の特徴とか過去の悪事について詳細に書いて貰った。

 この時代のヨーロッパにも鉛筆はあるみたいだけどこんなに洗練されておらず、赤鬼ジョンは鉛筆をしげしげと観察していた。



『今この島には何人残っている?』


『私を含めて7人だ。6人で出航した。』


『首謀者3人のうち誰か島に残っているか?』


『宣教師のダミアンが居る。

 あいつは人質の女性が目当てだからな』


 そういえば神父みたいな格好をしたのが居たな。あれが三悪党の1人なんだ。

 生臭坊主め!


 その時、外で見張りをしていたマサルの大声が響いた。


「大将っ、鬼共の敵襲だ!」


『ジョン、どうゆう事だ!』


『ノー!@#%**+=』


 早口で何を言っているのか分からなかったが、顔には焦りの色がアリアリで、少なくとも僕らを騙した、という風には見えなかった。

 しかし確認する暇もない。

 ノートや荷物を大急ぎでバッグにつめて背中に背負い、刀を抜いて外へ飛び出した。


 襲撃してきた鬼の中に宣教師がいて、ポルトガル語っぽい言葉で喚いていた。

 マサルは他の鬼に押さえつけられていた。


「大将ぉぉ、逃げてくれーっ!」


 横にいた赤鬼ジョンは同じスペイン語で反論していたが、薄ら笑いをした宣教師は無視して、鬼達にジョンを攻撃するよう命令した。(みたいだった)

 宣教師だけが長い剣を片手に持って振り回していたが、宣教師以外の鬼共はなたのような幅広な小刀しか持っておらず、ジョンを含めて丸腰同然みたいだった。


 敵は宣教師1人と鬼4人。

 うち1人はマサルを組み伏せているから手が離せず、4対2の戦いになった。

 ……が、赤鬼ジョンは思いの外弱くて2人にあっさりと取り押さえられた。

 使えねー!


  その時、ポチが飛び出して鬼の1人に襲い掛かった。武器を持つ右手にガッチリと噛みつき、離さない。もし鬼を殲滅するつもりならこの勢いで刀で切りつけていきたいが、それでは解決にならない。

 何よりもポチに小刀が突き立てられるのを見たくない。


「ポチっ、戻れ!」


 ポチは噛み付いていた口をパッと離し、僕の元に来た。

 宣教師に斬り掛かりたかったが、鬼が邪魔をする。

 取り押さえられているマサルにも赤鬼ジョンにも鬼が立ちはだかる。

 勘弁してくれ!

 僕はお前達を殺したくないんだ。


 膠着状態がしばらく続いた。

 がしかし、それは突然破られた。


 ターーーン!


 音と同時に胸に強い衝撃を受け、僕は後ろに弾け飛んだ。


「大将ぉーーー!!」



 ※解説:鬼達の持っている武器について

 宣教師が持っている片手剣が「カットラス」、他の鬼達が持っている小刀が「ファルシオン」です。

 カットラスは主に大航海時代の船上用武器として使われていた片手剣です。全長は60〜80cmと短く狭い船上で重宝されました。サーベルと混同されがちですが、サーベルは全長70~120cmと長く、騎乗での使用を想定して軽量化が計られた殺傷性の高い刀剣です。サーベルは16世紀初頭から作られ始めた刀剣なので、時代考証的にここで使われる事はありません。

 ファルシオンは9世紀頃から使われている主に平民用の武器です。様々なバリエーションがありますが、ここでは全長は60cm、重さ1.5kgの鉈と刀の真ん中みたいなイメージです。重いので打撃用武器として兜の上から叩きつけたり、生活用の道具として使われました。


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