第19話 赤鬼とのネゴシエーション

 

「キギス、オレの背負子バッグを持ってきてくれ」


 パニック状態から帰還したキギスからバッグを受け取ると電子辞書を取り出し、久しぶりに電池を入れてスイッチを入れた。

 どうにかまだ動く様だ。

 電子辞書を使いながら赤鬼ジョン(と勝手に呼ぶ事にした)と話をした。


【以後、「英語」を『日本語』で表示します】


『改めて紹介する。

 オレはモモタロウ、隊長チームリーダーだ』


『私はジャッキー・ニコルソン、イングランド海軍所属のパイロットだ』


 16世紀にパイロット?

 えーっと 、ああ水先案内人か。


『私達はインドからマラッカ経由で広州へ向かう船に乗っていたが、途中嵐に逢い遭難した。

 元々船には30人くらい居たが大半が死んだ』


『あなたの国へ戻りたいか?』


『もちろん帰りたいが、ここがどこなのかすら分からない。

 合流したスペイン人の船乗りの中に海賊だったものがいて、ここに好き勝手やっているのだ。

 我々も死にたくないからしぶしぶ協力している。』


 おもむろに僕はバッグの中から地図帳を取り出して、ユーラシア大陸のページを広げた。


『これを見てくれ。

 これがここ、日本ジャパンだ。

 この島はジャパンのこの辺りだ。

 これがインド、マラッカがここだ。

 明はこのあたりで、広州が…ここだ。

 …ブルネイ? ここだ。』


 赤鬼ジョンは正確な地図に驚きながら、彼が行ったことがある地名を聞いてきた。

 現代と地名が違うけど、地図帳には1941年頃の勢力図も端っこに載っていたから、何となく理解出来た。


『これは素晴らしい。

 この国はこのような高度な地図を作成するほど科学が進んだ国なんですね。

 お願いです、この地図を下さい。』


 高揚した顔の赤鬼ジョンがやや興奮気味で言ってきた。

 ……が。


『ノーだ』


 僕の返事に赤鬼ジョンの表情は曇り、同時に焦りの色が見えた。


『僕は海賊の調査リサーチのため、この島へやって来た。

 あなた方海賊は船を二隻持ち、人数は13人いる。

 そして住んでいる屋敷も特定した。

 じきに千を超える兵士があなた達を攻撃アタックするだろう。

 私はそれを望まない。だから協力コオペレーションして欲しい。

 そうすれば地図のこの部分だけ描き写すことを許す』


 僕の意図が分かると赤鬼ジョンは深く考えた後、大きく頷いた。


 そりゃ当然だろう。

 犯罪鬼達はこの島で行為を犯しているのだから本来なら友好的な関係は望めるはずがない。そこへ仕返し所か救いの手を差し出そうって言うのだから断れるはずも無い。でも吉備津彦尊様からの情報で鬼達の大半が悪者でないことを僕は知っているし、人殺しなんかしたくないのが僕の本音だ。

 それに心無しか赤鬼ジョンは地図を見た瞬間に態度が改まった気がする。それまでは僕や日本人を見下している様子があったけど、地図を見て侮れない相手と思ったみたいだ。その日本人の軍隊が攻め込んで来るのだから、僕の提案に同意せざる得ない。


 だが、交渉はまだこれからだ。


『しかし、全員は帰れない。

 我々は海賊のリーダーを許さない。

 あなた達の中で10人が帰る事が出来る。』


『あなたはあの3人が先導して海賊行為をしているのを既に知っているのですね。

 わざわざ交渉をしなくても、戦えば簡単に勝てるのにどうして我々にチャンスをくれるのですか?』


『あなた達の国がアフリカと新大陸アメリカで何をしているか、僕は知っている。

 我々はあなた方と対立したくない』


 もちろん方便だ。

 この世界が『桃太郎』という昔話の中の世界で、鬼達を助けたいと神様にお願いされたなんて言っても信じて貰えないだろう。

 まさかこの地図が500年後のものなんて考えもつかないだろうし。


『ありがとうございます。

 あなたは若く見えるのにとてもクレバーなのですね。

 少なくとも私はあなた達と敵対しないと約束します。

 そして、この国が侮れないということを、国に帰ったら必ず伝えましょう。』


了解オーケーだ』


『私達がこれから何をすればいいか教えて下さい。』


 よしっ、第一段階ファーストミッションクリアーだ!

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