第18話 アイアム Momotaroh.


 黒鬼を解放するとマサルが木の上から血相を変えて木の上から降りてきた。


「た、大将!

 なぜ黒鬼を一思いに殺さなかったんだ!?

 なぜ逃がした!」


「落ち着け、マサル。

 黒鬼を味方に引き入れたんだ。

 あいつは赤鬼の奴隷だ。

 奴隷を殺したところで何も変わらない。

 むしろ鬼達が警戒するだけだ」


「大将って時々思いもよらないことすっから、心の臓に悪いぜ。

 でもよ、大将は鬼より強ぇんだな。

 組み伏せた時にはすげぇって驚いたぜ」


「黒鬼は油断していたし、丸腰だったしな。

 普段は武器を持たせて貰っていないかもな。

 もう少ししたら赤鬼の1人が来る。

 味方のはずだけど、他にいないか木の上で警戒してくれ」


「合点っ!」


 しばらくすると黒鬼と武器を携えた白人がやって来た。

 何でもいい。

 イカサマなスペイン語でごまかして、敵意がない事を示さなきゃ。

 えぇっと、オラ、グラシアス、アミーゴ、それから……

 助けて!○“ーグル先生

 僕の電子辞書にはスペイン語辞典無いんだよ。


 一緒にやって来た赤鬼は汚れた金髪が肩まで伸びて薄汚れているが、身なりはマトモな感じだった。ブーツはこの時代にそぐわないくらい上等なモノに見えるし、船乗りって雰囲気じゃない。16世紀の西洋は王様とか貴族が支配している時代だから、この赤鬼も貴族かもしれないな。

 怪訝な顔をした赤鬼がおもむろに口を開いた。


「Who are you?」


 スペイン語じゃなくて、英語?

 まだアメリカは独立していないからイギリス人か?

 そー言えば、徳川家康にイギリス人の家来がいたって教科書にあったっけ?


「アイム Momotaroh。

 アイ ワントゥ ヘルプ ユー」

 (私はモモタロウです。

  私あなた達を助けたい。)


 助かった〜。

 現代では受験に有利になるよう英検4級を目指して英会話教室へ通っていたし、こちらの世界にやって来てから退屈な時にはバッグに入っていた英語のテキストを何度も読み返して全部暗記してしまったんだ。中学2年生レベルの英会話ならどうにかなる。


 僕が英語で答えると、赤鬼は驚いた目を見開いて早口で喋り始めた。

 しかし中二レベルの英語力でネイティブスピーカーと会話ができるハズが無い。

 このままでは埒があかないので赤鬼ジョンの言葉を遮った。


「アイ キャン スピーク イングリッシュ ア リトル。

 プリーズ スピーク スローリー。

 オーケィ?」

 (私は少し英語を話せます。

  ゆっくり話をして下さい。

  いいですね?)


 赤鬼はハッとして

「I apologise for the confusion.」


 謝っているのかな?

 まあ、いいや。


「カモン ツー アウア ベース。

 アイ ワントトゥ トーク アバウト ユー。

 アンド ハウ ドゥー アイ ヘルプ ユー」

 (私達の基地に来て。

  私はあなた達について、

  そしてどうやってあなた達を助けるか話をしたい。)


「I agree for your operation.」


 どうやら赤鬼は、片言ながら英語を喋れる僕の事を気に入ったみたいだ。

 まあ彼から見れば僕は子供だろうから、警戒も薄れたのかも知れない。

 まずは話を聞いて鬼達についての情報をあれこれ聞き出そう。


 木の上にいるマサルに声を掛けた。


「マサル、一旦引き上げるぞ」


 ◇◇◇◇◇


 暗闇に紛れて僕ら4人、僕とマサル、黒鬼と赤鬼は島民Aの家に向かった。他の島民に見つかると面倒なことになるからマサルに先行して貰って、誰もいないことを確認しながら進み、無事家に入れた。

 もっとも島民Aとキギスは鬼を見て腰を抜かしそうになったけど……。


「アンタら捕まっちまったのか!?

 やっぱ無理だったじゃねーか!

 もうお終いだ」

「おに……ほに……ほ……に…」


「捕まったんじゃない、捕まえたんだ!

 安心しろ、こいつらは仲間に引き入れた鬼だ。」


「騙されねぇぞ!

 俺たちを取って食うつもりなんだろ!」


「黒鬼、あいさつしてやんな」


「オバンデす」


「「お、お、お、鬼がしゃべった〜!?」」


 こんなやり取りが10分くらい続いて、ようやく鬼達が仲間になったと信じてくれた。

 半分くらい。

 たぶん。

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