第17話 鬼とのファーストコンタクト

 監視する事5日。

 やはり鬼達は予想した通り日本に漂着した西洋人だった。

 今は気候が良いせいで半裸姿でいる事が多くて、日本人では有り得ないモジャモジャな体毛と、金髪や赤毛の色とりどりな髪の毛が如何にも鬼っぽい。

 テレビとかで見慣れている僕には小汚い外国人にしか見えないし、1人だけ身長190cmくらいありそうなのはいたけど他は僕と同じくらいだ。

 サッカー選手みたいな言葉を使っていたから、ポルトガル人かスペイン人なんだろうな。

 調査では凶暴だと恐れられていた黒鬼は、奴隷として連れてこられた黒人らしく、ヒョロっとしていた。

 威張った白人にこき使われている様子だったから、逆らえないのは確かだった。

 あと薄汚れた神父さんらしい人が居たな。

 フランシスコ=ザビエルみたいな人なんだろううか?

『以後よく(1549)来る宣教師』…だっけ?


 人質が山の中なのは間違いなさそうだが、全員を見張る事が出来るわけでもなく何処に囚われているかは未だ分かっていない。もっと監視を続けるか迷ったけど、吉備津彦尊様との約束もあるし、お頭に報告する期限もあるので早々に行動を起こす事にした。


「マサル、鬼を捕まえに行く。

 見張りが必要だから一緒に来てくれ」


「大将、本気ですか!?」


「あぁ、ここんところの偵察で行動が読めるようになった。

 一匹でいるところを待ち伏せする。

 狙いは黒鬼だ」


 吉備津彦尊様からの情報で分かってることは黒鬼が悪党ではないことだ。だから黒鬼と接触する事にした。黒鬼は奴隷としてこき使われているので1人で行動することが多い。そこで水を汲みに来るのを待ち伏せした。


「マサル、たぶんあそこを黒鬼が通るはずだ。

 オレが相手をするから、他に鬼がいないか上から見張ってくれ」


「大将、本気で黒鬼と対峙するつもりっすか?

 襲われた人の話だとスッゲェ凶暴だって話ですぜ」


「オレに任せろ」


 僕も吉備津彦命様の情報が無かったらこんな無謀な事をしないだろう。

 しかし黒鬼が心優しい奴だという話が本当なら、黒鬼こそが鬼助けの突破口になるはずだ。

 マサルに木の上から見張らせて、仲間が近くにいたら合図するよう頼んだ。

 待ち伏せする事1時間くらい、辺りが薄暗くなる頃、黒鬼が桶を持ってやってきた。

 僕は脇差を抜いて木陰に隠れ、黒鬼を待つ。


 ザ、ザ、ザ、…


 黒鬼の足音が近づいて、隠れていた僕の前を行き過ぎた瞬間、後ろから足祓いをした。

 黒鬼が仰向けに倒れたところに覆いかぶさり刀を喉元に当てた。

 黒鬼は格闘の心得は全く無いようで、為す術もなく一瞬でケリがついた。


「声を出すな、大人しくしろ!」


 言葉が通じていないだろうと思いつつ、刀を押し付けて少しでも反抗したら殺す、と行動で示した。


「タ、タスケテクダサい」


「日本語が喋れるのか?」


「おタミさんにオシワリマシた」


「おタミさんは誰だ」


「ドウクツデ ツカマッた。

 ナカヨシ」


「お前と話をしたい。

 静かにしてくれるか?」


「ワカッタ、オトナシクスる」


 刀を収めて黒鬼を解放した。そして三個だけ残ったキビダンゴの袋を黒鬼に渡した。


「食い物だ。食え」


 黒鬼は恐る恐るキビダンゴを取り出して、クンクン匂いを嗅いだ。食べていいかどうか判断がつかない様子だったけど、美味しそうな匂いにあがなえずパクッと口に入れた。


「!」


 大きく目を見開いて、残り二つをあっという間に食べてしまった。


「オイシい。

 ハジメテ オイシい」


 黒鬼はろくに食べていなかったのか、キビダンゴでいとも簡単に陥落出来てしまったみたいだ。

 キビダンゴ最強すぎる!


「オレは人質を助けたい。

 そしてお前らも助けるつもりだ。

 このままでは軍隊がやってきてお前らは全滅するぞ。

 人質も無事で済まない」


「タスケて。

 オニのヒト コワい」


「悪い奴はオレがやっつける。

 良い人は助ける。

 だから良い人と話がしたい。

 ここに連れて来い。

 信用出来る1人だけだ」


 日本語を話せるとは言え、黒鬼の言葉はかなりたどたどしかったから出来るだけ簡潔に要件を伝えた。


「ワカッた。ジョン ヨぶ」


 意味は通じているみたいだ。……たぶん。

 黒鬼は駆け足で鬼の住処の方へと走って行った。

 さすがは黒人、脚はぇ〜な。

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