第12話 吉備津彦命様からの御言

 

 ……?


 ……あれっ?

 どこだ、ここは?


 真っ暗だ。

 床が柔らかい。

 壁も柔らかい。

 この世界にやってきた日の記憶が蘇ってくる。

 また僕は桃に閉じ込められたの?

 いつの間に??

 でも何で???


 プチパニックになっている頭の中で渋い男性の声が響いた。

 びっくり!


『モモタロウよ。

  これまで誠によくやってくれた。

  礼を言うぞ』


 ???


 悪意の無さそうな声が自分に向けられて少しだけホッとすると同時に、

 聞きたいことがどーーーっと押し寄せてきた。

 あなた誰?

 僕の事を知っている?

 これまでって、僕が何をしたの?

 ひょっとして僕がこの世界にやって来た理由を知っている?

 僕は元の世界に帰れるの?

 父さん母さんにまた会えるの、一緒に暮らせるの!?


 すると声の主が僕の疑問を察してくれたかのように話を始めた。


『ふむ、順を追って説明しよう。

 我は吉備津彦尊きびつひこのみこと

 伝説上の人物にして神より天界に住まうことを許された者だ。

 

 もちろん其方の事は存じておる。

 我が其方をこの世界に呼び寄せたのだからな。

 其方をこの世界に呼び寄せた理由は後で言おう。

 結論から言えば、其方は元の世界『現代』へは戻れぬ。

 残念だが我の力を以っても不可能なのだ。

 何故なら『現代』では其方は故人となっているからだ。

 命の復活は伊邪那岐いざなき様、伊邪那美いざなみ様の世からの禁忌なのだ。

 『現代』への魂の移動、つまり転生ならば可能だ。

 しかしそのためには、この世界で今一度死ななければならない』


『出来ない』と言われるとすごく凹むけど、『可能』という単語にはものすごく心惹かれる。何とかなるんじゃないか、という期待が膨らんでくる。


「それでは魂なら『現代』に戻れるのですね?

 父さんや母さんが居る『現代』に戻れるのですね?」

 

『その認識に間違いはない。

 しかし、元の自分には戻れぬ。

 それをしてしまったら無限ループが出来てしまうからな。

 身内の者や近親者とか友人ならばおそらくは可能だ。

 しかしな……』


(ごくり)


『記憶を持ち越せるのは前世まで。

 前々世の記憶は一切残らぬ。

 つまり『現代』に生きた記憶を持たぬ其方が『現代』に戻るのだ。

 もはや赤の他人と変わらぬ。

 それでも構わなければ、という事だ』


「でも僕はこの世界に元の姿で転移してきたんじゃないですか?

 同じ事ができないのですか?」


 必死に現代へ戻れるかもしれない可能性にしがみつきたい僕は、相手が伝説の偉人(神?)であることを忘れて声を張り上げてしまう。


『カン違いをさせてしまって済まぬ。

 この世界は過去の日本に見えるが歴とした異世界なのだ。

 オタクでくたびれたOLが中世ヨーロッパ風の貴族世界の悪役令嬢として転生するように、其方は中世日本風の農民社会の英雄として転生したのだ。

 姿形が同じに見えるのは、魂が同じであれば元の姿に似てしまうからなのだよ。』


 なんと言うか……吉備津彦尊様の説明って父さんの説明の仕方にそっくり。

『現代』のラノベを知っているって、神々しさが半減じゃない?


『コホンッ。

 モモタロウよ、この世界にやってきて『桃太郎』として振舞ってくれたのが何よりもの功労だ。

 おかげでこの世界のストーリーが破綻せずに済んだ。

 改めて礼を言う』


「この世界のストーリー?」


『そう、この世界。

 この『桃太郎の世界』というのは、神より与えられし我が力によって創られた世界なのだ。

 更に言えば、我の深き後悔の念によって生み出された異世界なのだ』


「後悔の念?」


『そう、後悔だ。

 公開でも、航海でも、公海でもない。

 後悔だ』


 うん、父さんと同じレベルのオヤヂギャグ。

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