第11話 ミーティングと調査結果

 宿屋では三人でミーティング。

 現代から持ってきた地図帳の中国地方のページをノートに書き写して、海賊が出没したと聞いた地点に赤えんぴつでバツ印と大体の日付を入れていく。


「マサル、ここいらを襲った時の海賊の様子は聞けたか?」


「へぇ、沖合にでかい船がやってきて、鬼どもが小舟に乗って上陸しやした。

 家という家を襲って食料を根こそぎ持っていかれた、と言ってやした」


「ホントに鬼だったのか?」


「あんなに真っ黒でデカい人間なんて居るはずがない、と震えてやした。」


「襲ってきたには黒鬼だけだったのか?」


「いえ赤鬼もいやしたが、赤鬼は見ているだけだったと言ってやした。」


 ふーむ、黒い鬼と赤い鬼の強盗かぁ……


「ところでキギス、村の様子はどうだった?」

 

「いつもと変わりはありませんでした。作り置きのキビダンゴを受け取りに行ったら、

『よくまーそんなにお団子ばっか食べられるねー。団子が好きなんだねぇー』

 と言われて恥ずかしかった」

 

「まさか農民の俺達が行商人の真似事をやっているとは思っていないんだろうな」

 

「それにしてもモモタロウ様の背負子しょいこはもんげー便利です。

  肩紐が柔らかくて全然痛くなかった」

 

「神仙の國から持ってきた道具バッグだからな。

 また残りが少なくなったら村に戻ってキビダンゴの補給を頼む」


 ◇◇◇◇◇


 こんな調子で情報を集めていった。

 地名が現代と違わなかったり、名残が残っているところが多いので、かなり正確な場所を把握できたと思う。海賊の被害は海向こうの讃岐の国まで及んでいて、思った以上に広範囲に渡った。

 一見バラバラに見える賊の被害を記入した地図を眺めてみると、その中心に海賊が潜んでいる可能性がある島をいくつか絞れる。そして海賊の大型船が係留出来そうな島をピックアップした結果、とある島が候補にあがった。


「島の名前は女木島。漁民達が暮らす島だ。

 讃岐の国から1里ほど離れているから、讃岐の一番近くの船着場の地を定宿にして情報を集める。

 マサルは一足先に島に潜入して様子を見て来てくれ。こっそりとだ。

 キギスは村に戻ってこの手紙をお頭に渡してくれ。ついでに仕入れも頼む」

 

 「へいっ」

 「はいっ」


 早速2人は指示に従い出立した。

 キギスにはボディーガードとしてポチを同行させた。


 ◇◇◇◇◇


 宿に一人残った僕はこの先の事を考えていた。

 キビダンゴの売上が現代の価値で200万円くらいになったおかげで色々と行動し易くなった。これだけあれば爺さんと婆さんに今まで世話になった恩返しも少しは出来るだろうな。

 でも『桃太郎』の鬼退治ってリアルだと無理難題だと思い知らされるよ。この時代の鬼の正体って海難事故で漂着した外国人、というのが定番じゃなかったっけ?

 僕がそれなりに戦闘訓練を受けて武器にも困らないなら何とかなるかもだけど、ガタイのいい西洋人の海賊、要するに犯罪者集団に単独で討ち入りするなんてマトモじゃない。

 日本に鉄砲がやってきたのが『以後よさんか鉄砲伝来』の1543年、あと2、30年年後だ。だからこの時代の海賊が銃の一丁や二丁持っていたとしても不思議じゃない。槍や刀で勝てる相手じゃないよ。

 だから調査はきっちりやって、あとはお頭様に丸投げしよう。とりあえずあの島に海賊が居るか調べて、あとは住処の特定と大まかな人数、戦力の確認だな。


 ……僕も来年は成人だ。

 先発隊の仕事のお陰で商人とのツテも出来たし、村を出ることも考えておこう、かな。

 本当は17歳(数え)だけど……


 ところで僕はどうしてこの世界にやってきてしまったのだろう?

 僕はぼんやり考えながら眠りについた……。



 ※解説:女木島の鬼ヶ島伝説について

 女木島は桃太郎伝説が残る実在の島です。他の島を鬼ヶ島とするのも失礼と思い、名前をお借りしました。拙作では鬼ヶ島の場所を女木島と想定して話が進んでいきます。

 興味のある方は是非女木島にお立ち寄り下さい。


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