第10話 キビダンゴ売り
「♪もーもたろさん ももたろさん
おっこしにつけたー きびだんごぉー
ひっとつー わったしにくださいな〜」
「♪やーりましょう やりましょうー
これからおにのー せいばつにぃー
ついてーいくなら やりましょう~」
「♪いーきましょう いきましょうー
あなたについてー どこまでもぉー
けらいになってー いきましょう~」
キギスと二人で代わる代わる歌を歌い客を集めて、きびだんごの欠片を試食させる。
ほんの一欠片で口いっぱいに広がる甘味を味わうと、大人達は我先にと買い求めた。
「1個くれ!」
「はい、お待ち遠様」
「私は3個」
「はい、お待ち遠様」
近所のスーパーでよく見かけるシンプルなリズムの販促ソングと試食という客への直接攻撃は、この時代の人には新鮮に写ったみたいだ。
ただでさえ娯楽の少ない時代だから、お尻丸出しの子供達はずーーーっと見入っていた。
だが試食はやらん。
現代の価値で1個500円くらいの価格だけど、少ない小銭をはたいて買い求めてくれた。
集団心理というものは恐ろしい。
もっとも村々の人口が大して多くないので、直ぐに行き渡ってしまう。
待たせる事になるけど会話をしながら一人一人丁寧に対応した。
行列をみたら並んでしまう日本人の習性はこの時代でも同じみたいだ。
「お前さん、奇妙な格好しているけど、京の都から来なすったんで?」
「いや、ワタクシは神仙の國から参った者だ。
鬼が出るという話を聞いて、この地に馳せ参じたんだ。
団子売りは民との交流のためだ」
「へぇー、確かにあんたの体躯なら鬼に負けなさそうだもんな。
神仙の人ってこんな美味いもんを毎日食っているんだ。
そりゃあ、身体も大きくなるはずだ」
「ちょっとぉアンタいい男じゃないの。
あっちの方で若い娘達がアンタのことポーっと見惚れているよ」
「そうですか?
それは気が付きませんでした。
若い娘さんとは言葉すら交わしたことがないので、どうしていいのか分かんないですよ。
おねーさんが御指南して下さいよ」
「ヤダーおねーさんだって、
10年振りに言われたよ。上手だねぇ。
その調子で娘を拐かしてんじゃないの?」
「エラい美味い団子で。
ウチの店に卸しませんか?どうです?損はさせませんよ」
「申し訳ないです。
手持ちが心細くて、材料も手に入り難いんです。
行商でやっていくだけの量しか捌けないんです」
「もったいない。
最近、この先の街道で賊が出るとかで、京の方向へは荷物が届きにくいんですよ。
災難の最中ではあるけど、人が生きていくためには食べ物は欠かせません。
ましてこの団子、食べやすくて味は最高。
ウチで取り扱えば引く手数多間違いない」
「もう少しすれば材料も安定的に供給できますので、暫くお待ちください」
といった感じで、雑談85%、情報収集10%、商談5%で売り子をやっている。
コミュニケーション能力の高いマサルには別行動をとってもらい、情報を仕入れてもらった。
キギスは荷物の番と団子売りの歌い手要因。
最初の頃はろくに声も出なかったけど、だんだんと舞台度胸が付いてきて、綺麗な唄声を披露している。女性の声が入ると桃太郎ソングもデュエットみたいで好評だ。
そしてポチはマスコットとして大人気。
毛並みが良くて躾がバッチリなので、老若男女問わず客とキギスをキュンキュンさせている。
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