第9話 先発隊の結成!

 そんなある日、お頭様から招集があった。

 いよいよ戦か?初陣か?

 平和な時代からやってきた自分としたら、戦で殺し合いはしたくないなぁ。

 戦わずに遁走する事を選択する可能性が僅かだけどほんのりとある……かも知れない。

 でも実の子供の様に可愛がってくれる爺さん婆さんを裏切る様な真似はしたくない。

 正直、心が痛いよ。


 お屋敷ではお頭様を上座として、12人くらいの家臣が出席していた。

 若造は僕と若様だけ。

 一番の下座にかしこまっていた。


「殿からお達しがきた。

『鬼の扮装をした海賊が領内の海辺に出没しており、多大な被害を与えている。

 兵を率いてこれを殲滅せよ』との事だ」


「我々が総出で出兵し、敵を一気に叩くので御座いますのでしょうか?」


 出席者の中のひとりがお頭様に聞いた。


「いや、くだんの海賊は神出鬼没。簡単には勝てんだろう。

 まして我らには船での戦いの経験がない」


 戦は戦でも海賊退治の話だった。

 鬼に扮してって、もしかしてコレって鬼退治イベント?


「今回は若い者を先発隊として派遣する。先発隊は彼奴等の拠点を突き止めよ。

 そこで知り得た情報を元に、策を練った上で精鋭による本隊にて強襲する。

 先発隊の隊長をモモタロウ、強襲する本隊の隊長を倅に任せる」


「「「「「「え"っ!」」」」」」」


何故なにゆえ、モモタロウに任せるのでしょうか?」


 ちょっとした沈黙の後、次郎様がお頭様に質問した。


「先発隊には備前、備中、備後、讃岐を中心に調査を進め、賊について調べ上げて貰う。

 当然簡単な事ではない。今の我らには賊の情報が何も入っておらぬからな。

 従って調査は中期に渉るものと予想しておる。

 しかし今から先は農繁期。田畑から目が離せぬため、働き盛りの者を長期間駆り出すことは避けたい。故に先発隊が若い者になるのはやむを得ない」


「モモタロウにその役目が務まるのでしょうか?」


(「いいぞー、もっと言えー」by 心の声)


「ふむ、若い者の中で字が読み書き出来るのがモモタロウしか居らんからな。

 手紙でのやり取りが出来る者を選んだ結果だ。

 爺さん仕込みの腕前だ。心配は無い。

 良い経験にもなるだろう」


「大役、しかとうけたまわりました!」

(「どーしてこうなったー!?」by 心の叫び)


 若の習い事に付き合ったばかりに…心の中で僕の絶叫がこだました。


 ◇◇◇◇◇


 先発隊の出立は3日後。それまでに準備を進めておかなければならない。

 槍と刀はお頭から支給された。

 支給といってもこれまでの戦場で死体から剥ぎ取ってかき集めた武器で、普段は反乱や一揆の武器にされないようお頭の屋敷で保管されているヤツだ。

 屋敷で留守を預かる爺さんですら持っていたのは小刀だった。

 手入れが行き届いているわけではないからサビが浮いた刃を自分で手入れしなければならない。

 でも今回は刀の選別から手入れまで全て爺さんにお願いした。

 自分でやって出来ない事はないけど万全を期したいし、他の準備で手一杯なんだ。


 一番の問題はお金。

 交通費や宿泊費、食費も全〜部自腹だ。報酬が租税の軽減なのは戦への出兵と同じ扱いなんだろうな。

 道中どうやって路銀を賄うかと言えば、仕送りか肉体労働しかない。

 しかし僕には秘策があった。

 『桃太郎』と言えばキビダンゴ。そして他の地域に無いサツマイモ。

 だからサツマイモをベースに甘~いキビダンゴを作って売るんだ。

 この時代の人には暴力的に甘いキビダンゴ。これを売って売って売りまくるため、僕と婆さんはキビダンゴを作った。

 差し当たって30個入りの袋が100袋。婆さんには足らなくなったら受け取りに来るからと、作り置きをお願いした。


 そしてもう一つ。

 集客のためのコスプレ。

 目立ちさえすれば美味しいキビダンゴは飛ぶように売れる、はずだ。たぶん。おそらく。

 前髪は真ん中分けで、桃マークの入ったハチマキでキュッと締める。

 野良仕事が似合わない水色を基調にした着物。

 橙色のたっつけ袴と具足。

 着物の上には左右桃マークの入った白の陣羽織。

 そして極めつけが『日本一』と書かれたノボリ。

 そう、ザ・『桃太郎』のコスプレ。


 まさか自分が『桃太郎』の格好をする日が来るとは……。

 でもハゲは恥ずかしいから、てっぺんの髪は剃らずに長い後ろ髪をだらんと降ろした。

 僕がイケメンだったら現代の某CMに出てくる桃太郎みたいになったはずだ。


 ◇◇◇◇◇


 出立当日、先発隊メンバーが我が家に集まった。

 初顔合わせだ。

 僕ともう一人、そして世話係の女の子、プラス愛犬のポチ。(少なっ!)


「短い間だと思うがよろしく頼むな。

 オレはモモタロウ。お前達の名前は?」


「俺っちはマサルだ」


「わ、わたしはキギス」


 ……何だろ?

 名前のチョイスに意図的なものを感じるな。

 

「オレ達の仕事は戦う事ではなく、いわば密偵みたいなものだ。

 俺が奇異な身なりで目立つ分、お前達には陰で働いてもらうつもりだ。

 宜しく頼むよ」


 もしこの世界が桃太郎の世界だとしたら、このイベントは鬼退治へと繋がるかもしれない。

 とりあえずは危険を回避しつつ、目的の情報収集は真面目にやるつもりだ。

 あとは……うん、その時に考えよう。




※解説:桃太郎の衣装について

御伽草子『桃太郎』では様々なバリエーションの衣装がありますが、拙作では吉備サービスエリアにある桃太郎像を参考にさせて頂きました。

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