第8話 4年経ちました

 そんなこんなでここでの生活が4年経った。

 身長は170cm、こっちの世界の単位で五尺六寸になった。

 ここいらでは一番背が高く、ウドの大木とか木偶の坊とか言われているらしいけど、剣術もそこそこ強いみたいだし、力で大人に負けないから面と向かってそう言う奴はいない。

 お頭様に帳簿の仕事を手伝わされているから、読み書きや算数が出来ることも知れ渡っているようだ。


 大きな変化と言えば、犬を飼った事だ。

 名前はポチ、昔話といえばポチかシロの二択だもんね。

 万が一、鬼退治イベントになったら猿と雉は戦力としてアテにならないだろうし、会話もテイムも無理だと思う。

 だけど犬は鍛えれば力強い味方になる。

 この時代のペット事情は最悪で、地域によっては飢饉の際の非常食みたいな扱いだし、野菜クズしか与えられないからいつも飢えている。

 でも現代の家では犬を飼っていたし、クラスで飼育委員をやっていたので、飼育について知識が少しはあった。

 ネギ、ニラ、銀杏、山椒、チョコレートなんかは絶対に与えないようにした。

 ……チョコレートなんて無いけど。

 根気よく訓練をしたから、警察犬とまでは言わないけどかなり賢い犬になった。

 匂いを辿って追跡も出来るよ。

 僕の大切な仲間で、そして親友だ。


 雉とは仲良くなれなかった代わりにニワトリを飼って、取れた卵が成長期の栄養タンパク源になった。

 母さんの卵焼きが食べたいなぁ。


 知識チートと言えば、村に立ち寄った薩摩国の商人が自分用にサツマイモを持っていたので、米一俵と芋三つを交換した。

その時は『何を考えているんだ?』とお爺さんお婆さん以外の周りの皆んなからは散々非難された。

 でも、電子辞書に載っていた畝の説明を元にイモ畑を作って、交換した芋を種芋にして植えたら芋がたわわに実った。電子辞書バンザイ!

 甘い焼き芋の誘惑に勝てるやつは誰もいないから、みんなクルクルと掌を返しやがった。

 まあ、村人の栄養状態を改善することは自分のためでもあるから気前よく分けて、育て方を教えた。それ以来、村の人達の僕に対する態度が柔らかくなったのが一番の収穫だね。

 ちなみにその商人はサツマイモを辛くないのに『カライモ』と呼んでいたのは、何でだろう?


 だけどここが本当に『桃太郎』の世界なのかは結局分からずじまいだった。元の情報が少なすぎるからね。

 昔話の『桃太郎』って数ページのお話だから、どこの地方か、いつの時代かも不明だし、登場人物の中で名前があるのは桃太郎だけ。犬、猿、雉はもちろんだけど、お爺さんやお婆さんのプロフィールすら謎だ。

 調べれば調べる程、僕は室町時代にタイムスリップしただけのような気がしてきた。


 いや、タイムスリップでも十分異常事態で、“だけ”じゃないんだけど……。



※解説:さつまいもについて

鹿児島ではさつまいもを唐芋カライモと呼ぶ事が多い様です。

日本へは1600年頃伝わったそうで、時代考証的にムリがありますが、その辺は創作という事でお見逃し下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る