第6話 爺さんの指導
何はともあれ、僕はこの世界で生活していくことになった。この時代を生きていくためには爺さんと婆さんが頼りなので、心象を悪くしない様気をつけなきゃ。
先ずは情報収集だ。
アニメでお馴染みの異世界特典らしきものは僕には備わらなかったみたいだから、現代知識チートを最大限に活かすしかない。
幸いだったのは社会科のテキストがバッグの中にあったので、この時代の年代を確認することが出来た。
多分ここは16世紀初頭、西暦1500年から1520年頃の日本だと思う。
場所は備前、現代の岡山市付近だ。
これは電子辞書の国語辞典機能で分かったことだけど、電池を節約するため普段は電池をとり外して使わない事にした。僕の持ってきたグッズの中で一番現代を感じさせてくれる。このままだといつまでもポチポチやってしまいそう。
この時代の田舎の子供にインドア派は許されないのでお婆さんの畑仕事を手伝い、爺さんの薪拾いについて行った。
「モモタロちゃんはホントにいい子だねぇ。働き者だし、礼儀正しいし」
「お世話になっているのだから当然の事ですよ」
「最初見た時は色は白いしお公家様の子供かと思っちゃったからねぇ」
「いえ、ごく普通の家で育ちましたよ。
農家ではありませんでしたが……お父さんは工人でした」
エンジニアだから工人でいいのか?
「へぇー、じゃあモモタロちゃんはのお父さんは何を作るお方だったんだい?」
「うーん、工房(研究所)と家は別々だったので仕事をする姿を見た事がないんです。
でも『この世で誰もなし得なかった事をやってみたい』と、いつも言ってました」
「モモタロちゃんのお父さんはホントに偉いお方なんだねぇ」
「ところでお爺さんはお頭様の所なんですか?」
「今日は山へ行って柴を拾っているよ」
「『お爺さんは山へ芝刈りに』ですか?」
「3日に1遍山に入るから、今度じい様と一緒に行くがええ」
昔話で『お爺さんは柴刈りに』とは、
因みに爺さんの場合、柴拾いよりも山の様子を見る事が目的みたいで、柴を拾うのはついでみたいだった。
爺さんとのお話しながらの柴刈りは僕にとっても有効な情報源だったし、勉強の場だ。
◇◇◇◇◇
「モモ!振りが遅い!
そんなではすぐに得物を
戦場で生き残りたければ、死んでも剣を離すなっ!
若、もっと相手をよく見るのじゃ!
相手は素人、隙だらけじゃ。
戦場で乱戦になれば、このような素人の農民と切り合いとなるのじゃ。
心を乱さず、的確に急所を突くんじゃ!」
柴刈りの時の爺さんとはうって変わって、剣術の鍛錬の時の爺さんは昔話の中の優しそうなイメージとは全然違っていた。
しかし遠くない将来、鬼退治に出掛ける事態になったら命懸けで戦わなければならない、かも知れない。
だから爺さんの指導は真面目に受けている。
自分が強くなるしか今のとこ他に方法がないからね。
鍛錬の時は同じ歳(?)の若と一緒に稽古している。
僕の方が頭一つ分大きいし、力も僕の方が強い。しかし剣道の経験が無いから木刀の握り方から教わる僕とでは比べ物にならず、最初の頃はこっぴどくやられた。
「モモ、稽古の相手ご苦労。
体が大きい割に存外弱いんだな」
実年齢が二つ年下の若に偉そうに言われるが、言い返したいのをぐっと我慢。
「若様、私の居たところでは剣術の鍛錬の際、身体を守る鎧のような防具を身につけて、竹を束ねた棒を使って鍛錬しておりました。木刀でポカポカ殴る事はしないのですよ」
「ふん、モモの世界は軟弱だな。
もしオレが『叩かれて痛い』だなんて言ったら、父上にドヤされて、拳骨を喰らうぞ」
「お頭様は厳しいのですね」
「こんな事、どこも同じだ。
柴山の爺さんはもっと厳しかったと父上が言ってたぞ」
『若様ぁー』
「連中が呼んでいるみたいだ。
モモ、明日も鍛錬の相手を頼むぞ」
若の取り巻きは僕に対してどこか余所余所しく、僕が連中の仲間の輪に加わる事はなかった。周りからは神仙の國の者として扱われていて、学校で例えれば僕は余所の土地からの転校生みたいな立場だ。
大人達も同様に僕に話し掛ける人は少ない。祟りとか呪いとかが普通に信じられている世界だから、余所の世界から来た僕は腫れ物扱いなんだろうな。
そうゆう意味では若もお頭も爺さんも婆さんも、僕にとってありがたい存在なんだと思う。
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