第4話 お頭様の屋敷にて
朝、薄い布団で体が痛くなって目が覚めた。
どうやら僕はあのまま寝てしまったらしい。
お爺さん達は僕を寝床まで運んで寝かせてくれたみたいだ。
僕が起きた時には、爺さん達はもう既に起きていた。
「おはよう」
と言うと、爺さんが
「おはよう」
と返した。
「体は大丈夫かい?お腹は空いていないのかい?」
と、婆さんが僕を心配してくれた。
本当に親切な人達だと思う。
「心配してくれてありがとう。
迷惑かけてしまってごめんなさい。
おかげでゆっくり休めました」
まずはお世話のなったお爺さんとお婆さんに心象を良くするため、お礼とお詫びはしっかりしておく。
「大変だったみたいだな。
まあ落ち着くまでゆっくりしているといい。
まずは飯にしようか」
そう爺さんが言ってくれるので、その言葉に甘えることにした。
味噌汁と漬物と山盛りのごはん。お肉や卵の全くない草食系男子の朝食だ。
草食が正しい意味かどうか分かんないけど。
◇◇◇◇◇
食事の後、爺さんがお頭と呼んでいる地元の有力者の所へ行くと言った。
身元不明の僕のことを報告しなければならないらしい。
逆らったらここで生きてことも難しくなりそうので大人しく従うことにした。
「お頭ってどんな人?」
「お頭はこの地域一帯の兵士を束ねるお方じゃ。
戦では千人の兵士を率いて殿に仕え、御館様に直答を許される偉い方だからくれぐれも失礼のないようにな」
隣を歩く爺さんに聞いてみたが、話からすると戦国時代っぽく聞こえる。
受験で社会科が必須科目だったから、大きな戦があった時代はだいたい覚えてる。
平安時代末期の源平合戦か?
応仁の乱から関ヶ原の戦いまでの戦国時代か?
江戸時代の幕末……は雰囲気的に無いよな。
そうだ!
バッグの中には社会科の資料があったから調べられるかもしれない。
用水路に落ちた時に背負っていたバッグの中身は、バッグの防水機能のおかげでほとんど濡れていなかったんだ。
◇◇◇◇◇
お頭の家は現代でも豪邸と言われそうなお屋敷で、門番も居るし塀も立派だった。
爺さんは門番に挨拶すると顔パスで中に入っていき、僕も後について行った。
座敷に通されると、あぐらで座っていいと言うので正座を崩して座る。
でもウチは畳のない家だったから床に座る事がなかったから慣れないな。
直ぐにお頭さんがやってきた。
「おぉ、待たせたな。
お前さんが桃に乗ってやってきたという
「おはようございます。
モモタロウと言います」
ホントは現代風&厨二チックな父さんセンスの名前なんだけど、ここが桃太郎の世界だとしたらどう考えても僕は桃太郎ポジションっぽい。
モモタロウと名乗って損は無いと思うので、今朝から僕はモモタロウになった。
爺さんにもモモタロウで通したし。
「モモタロウよ、お前さん何故桃に乗ってやってきたんだ?」
「僕はこことは違う世界にいました。
気がついたら桃の中に居たので何故ここに来たのか分かりません」
「ふーむ、俺らも知りたいところだが本人すら分からぬのなら致し方がない。
ところで歳はいくつだ?」
「10歳です。」
「なっ!3番目の倅と同じ歳か?
図体が全然違う。本当に10歳か?」
後になって分かったことだけど、この世界では数え年で年齢を数えるのが一般的で、11月生まれの僕はこっちでは12歳らしい。栄養状態のいい現代で育った僕が2歳年下の10歳と言えば驚くのはもっともだった。
しかし嘘を言っているつもりは全然ないし、年齢よりも桃に乗ってやってきた異(世界)人というインパクトが強烈だったのでそのまま受入れてもらえたみたいだ。
「モモタロウよ。
お前さんはこの先どうするつもりだ?
乗ってきた容れ物が仙果だったとしたらお前さんは神仙からの客人という事だ。
粗雑な扱いをするつもりは無い。
が、この地に災いを成すのなら捨ておけん。
改めて聞きたい。
お前さんはどうしたいんだい?」
この事は聞かれると予想していた。
受験対策で面接やディスカッションの練習をやってきた。だから予め頭の中で考えてた答えを練習通りに口にした。
「恐れながら。
僕は自分の意思でここに来たのではなく、いわば事故で流れ着いたようなものです。
元の世界では鍛錬の途中でしたから何の力も僕にはありません。
ご迷惑でなければ、この地で皆さんと同じ生活をさせて下さい」
すると隣に座って居た爺さんが発言した。
「ワシら夫婦には子供がおりませぬ。
これも何かの縁。
ワシの家で世話を致しましょう」
えぇ?
爺さんホントにいいの?
突然の提案に驚いていると、しばらく考え込んだお頭がこう言い放った。
「ふむ、神仙で育った者は思慮深くもあるようだな。
あい分かった。
モモタロウは柴山の爺さんの所に身を寄せるといい。
こう見えても爺さんは戦場の鬼神と言われた男。
鍛錬の相手にもなる」
こうしてこの世界で生活していくことが出来る事になった事に、驚きながらも心の底で安堵したのだった。
とりあえず。
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