第3話 お爺さんお婆さんとの邂逅
僕を閉じ込めていた箱の様なものが突然パカッと開いた。
突然の光に目が眩んだが、明るさに目が慣れてくるとのどかな田舎の風景が
目に映った。
場所は川の近く。そして目の前には僕よりも背丈の小さいお年寄が二人、爺さんと婆さんがいた。
そして爺さんの手には小刀が!?
えーーっ!
何か対抗出来るモノはあるか?
バッグの中のペンケースに鉛筆削りがあったけどムリ!
コンパスの針じゃ太刀打ちも出来ないよ。
バッグをお腹に負って盾代わりにするしかないかも。
どうしよぉぉぉぉ!!!
パニックになりながら、ふと右手に子供用のケータイがある事に気が付いた。
そして僕は迷わずストラップを引っ張った。
BEEP! BEEP! BEEP! BEEP! BEEP! BEEP! ……
怖くて声が出ない僕の代わりに100デシベルのブザーが鳴り響いた。
婆さんの方は腰を抜かしたみたいにへたり込んでアワアワしている。
しかし爺さんの方は少し怯んだみたいだけど、僕から目を離さない。
いつでも逃げ出せるよう僕は腰を浮かせて、立ち上がると同時にダッシュ出来る体勢をとった。
1分くらいプサーが鳴り響いたけど、爺さんが刀を引っ込めてくれたので僕もブザーを止めた。
そして静かになった所で爺さんが話しかけてきた。
「????」
何て言っているんだ?
爺さんの言葉は日本語っぽいけど方言がキツくて、すごく聴き取りづらい。
「お前は何者だ?もののけか?なぜ??の中にいた?」
と言っているのだと思う。
たぶんだけど。
「用水路に落ちて、溺れたんだ。
気がついたら箱の中に居た。
ここはどこ?
あなた達が僕をここに連れてきたんじゃないの?」
と答えたのだけど、向こうも僕の言葉を理解していない様子だ。
さっきの爺さんの言葉は地元の方言に似ていた様な気がする。
だったら、父さんの実家で父さんとお祖父さんが喋るときの言葉を真似て、もう一度同じ事を言ってみた。
そしたら少しだけ言葉が通じたらしく、何となく雰囲気が和らいだ。
爺さんに敵意はなさそうだけど、言ってみるか。
「怖いですから刃物を収めて下さい。
お願いです。」
「ああ、スマン。スマン。
これは桃を切るためのモンじゃ」
「桃?」
「ホレ、お前さんが入っているそれは桃じゃろ?
知らんかったのか?」
ゆっくりと箱から出て、振り返って、僕を閉じ込めていた物体を外から見ると、そこには、
「桃……」
僕が箱だと思っていたのは桃だった。
お爺さんとお婆さんと桃、そして桃から出てきた僕……という事はやっぱアレか?
『桃太郎』のお話に転生!?
さっきボツになった異世界転生という選択肢が1番ハマってしまった。
でもさ。
フツー架空の世界への転生と言えば、中世ヨーロッパ風の乙女ゲームじゃないの?何がフツーか分かんないけど昔話の中の異世界なんて聞いた事がないよ。
知らないだけかも知れないけど。
「一緒に来るがええ」
惚けてフリーズしまった僕に爺さんが話しかけてきた。
そして腰を抜かして立てなくなってしまった婆さんをおぶり、家の方に案内してくれた。
道すがらすれ違う人々の目は気になるけど、心の中はそれどこでは無かった。
僕へ視線を向ける人々の着ている服がリアルに見窄らしい。
時代劇でしか見た事がないような田舎の風景が強烈に違和感ありすぎて、頭はパンク寸前だ。
道が狭く、アスファルトで舗装された道が一本もなく、車が一台も見当たらなかった。建物は資料館でみたような昔の藁葺き屋根しかなく、家々には電線どころか現代を感じさせる物が何一つなかった。田んぼは見た事がないほど歪な形をしていた。
異世界なんて空想だ、と自分の心の奥底で思いたがっている拠り所が一つまた一つと削り取られていくのを感じた。
そして爺さんの家の中に入った時。
見慣れている生活用品が一つもない典型的な昔話に出てくる古民家であるのを見て。
……涙が出てきた。
僕は昔の日本、桃太郎の世界らしき異世界に来てしまったという、非現実的な現実を実感してしまったんだ。
自分が当たり前だと思っていた日常とは無縁の世界に、小学生の自分がただ一人放り出されたという孤独感がブワッと溢れてきた。
何よりも二度と会えないかもしれないお父さんとお母さんの悲しそうな顔を思い浮かべると、涙は勢いを増して止めることが出来なかった。
いつしか号泣していた僕を、爺さんと婆さんがただ静かに見守っていた。
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