第2話 柴山の爺

 ***** お爺さん視点 *****


 儂はこの辺では柴山しばやまの爺さんと呼ばれておるジジィ、じゃ。

 昔は田畑を耕す毎日で、村一番の器量良しといわれた婆さんと貧しくとも幸せな生活をしていた。

 残念な事に子供には恵まれなかったが、互いに好きあって夫婦になった婆さんと一緒であれば不満なぞない。


 しかし、じゃ。

 度重なる戦で兵役に行かねばならなくなったり、その間に敵兵どもに田畑を荒らされるわで散々じゃった。

 お偉い方々というのはどうも争い事がお好きなようで、儂らと関係ない所で戦をやってもらいたいが、こればっかりはどうにもならん。

 戦ではそこそこの手柄を立てたものの、脚のケガが芳しくないんで田畑を甥達に譲り、儂ら夫婦はお頭の屋敷で下働きさせて貰う事になったんじゃ。

 子供はおらんが若に剣術を教えるのは何とも言えぬ気持ちになる。

 儂ら夫婦に子供がおったら、もっと楽しかったのであろう……と。


 普段は小間使いの他に、馬の世話や、薪を拾いに山に入ったりするが、屋敷に居る事が仕事みたいなもんじゃて、のんびりしたものじゃ。

 婆さんは小さな畑の世話とか、お頭の家で御一家と住み込みの下男達の食事係、たまの息抜きに大量の洗い物を持って川辺でゴシゴシと洗う。

 ホントに儂には勿体ない働き者の婆さんだと思う。


 そんなある日の事、山へ柴を取りに行っておった儂のところに洗濯へ行った婆さんが川で大きな桃を拾ったと、慌てて跳んで来た。

 やっとのことで川辺に引き上げたのじゃが桃が重くて持ってこれないと言う。

 信じ難い話に思えるが、婆さんの言う事にウソなどあろうはずがない。


 ひとまず大きな桃とやらをナタでバラバラにしてから持って運ぼうと桃のある所まで案内してもろうた。

 すると確かに大きな桃があった。

 よし!

 こんな大きな桃ならば食いでがあるだろうと思いながらナタを振り下ろそう!

 ……としたが、いや待て。

 これはただの桃ではない、仙果かもしれぬ。

 粗雑に扱うのは拙かろう。

 まずはよく調べてから、じゃ。


 のっぺりとした表面なのにシミもキズも全く見当たらない。

 触ってみると思ったよりも硬く、果物というより造り物の様な感じじゃ。

 万遍なく隅々まで調べてみると、細い糸で繫ぎ合わせた縫い目の様な場所がある。

 その糸を護身用の小刀を取り出し、一本一本丁寧にプツンプツンと切っていった。

 そして二尺(60センチ)ばかり縫い目を切ったところで突然桃がパカッと二つに割れた。


 中には図体の大きな童が驚いた顔をしてこっちを見ているではないか!?

 なぜ子供が?

 いや、なぜ子供が桃の中にいるのじゃ?

 いや、なぜ中に子供が入った桃が川で流れておった?


 もう、訳がわからぬ。

 じゃ。

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