異世界・桃太郎 〜桃に乘ってやって来たこの世界はホントに『桃太郎』の世界なの?〜
藍甲イート
『桃太郎の世界』へ
第1話 台風の日に……
鬼は激しい攻撃で双剣を振り回してくる。
右、左、右、次は左かと思えば身体をくるりと回転させて裏拳の様に剣を振り回す。
何とか受け止めた!と思った瞬間、奴の左の剣が背中側から伸びてきた。
「ちっ!」
脇腹を掠めた感触が。
大丈夫、皮一枚切っただけだ………。
『現代』では平凡な子供だった僕が、何の因果か鬼と剣を交えて戦っている。
あの日、用水路に近づいていなかったら……
あの日、あの道を歩いていなかったら……
あの日、天気が良かったら……
と思う事はこの4年間しょっちゅうだった。
だが、僕は約束を果たすため鬼と戦う!
何故なら僕がモモタロウだからだ。
◇◇◇◇◇
『大型で非常に強い台風10号は勢いを保ったまま本日未明長崎に上陸し、日本列島を縦断する形で東北東へ時速10kmで進んでおります。』
今日は台風の接近が通学時間にガッツリ重なったため学校は臨時休校になった。
いつもならお母さんに叱られながら時間ギリギリに起きるのだけど、なぜかこうゆう日は目が覚めてしまうんだよな。
朝9時になると、お母さんが
「危ないから晴れるまでは外に出ちゃダメよ」
と言って、車に乗って危ない外へと出ていった。
まさかこれが母さんと最後に交わす言葉になるとは……。
学校は休校でも進学塾はある。
再来年の中学受験に向けて勉強しなければならないからね。
行く途中、どうしても普段の様子と全然違う様子の用水路に目がいってしまう。
いつもなら川底でチョロチョロと水が流れる程度の水量なのに、今日は溢れそうなくらいの水かさでものすごい勢いで濁った水が流れていく。
用水路のすぐ近くまで寄って激しい濁流を見るうちに、水が流れているのではなくて自分が船に乗って水上を移動している様な錯覚になるのは不思議。
そんな錯覚を楽しんでいる時、一瞬だけ平衡感覚を失って ……
次の瞬間、自分は水の中に居た。
違う!
用水路に落ちたんだ!と気が付いた時にはもう遅い。
激しい濁流の中ではスイミングスクールで習ったことが全然役に立たない事を実感しながらなす術なく流されていく。
コンクリートで固められた用水路に掴まる所なんかない。
更に悪い事に用水路はトンネルのような地下水路に入って行った。
もちろん僕もいっしょだ。
真っ暗な水の中で自分が取り返しの付かない事をしたという後悔と共に意識を手放した。
◇◇◇◇◇
……?
……あれっ?
僕は生きてる?
真っ暗なのは変わらない。
だけど、僕が僕であることを意識出来ていることに大きな安堵の気持ちが満たされる。
そして気持ちが落ち着いてくると、ここが何処なのか気になってきた。
何だか床が柔らかい。
壁も柔らかい。
いや、柔らかい何かに僕は閉じ込められているんだ!
でも何で???
もしかして僕は今病院のベッドに寝ていて、夢を見ている?
でも、自分をペタペタと触ってみると用水路に落ちた時の服を着ているし、背負っていたバッグはそのままだ。
こんなリアルで現実的な夢を見たことがない!
リアルも現実も同じ意味だけど、とにかくそう!
じゃあ監禁?
アパート住まいの大してお金もない家庭の僕をさらって何得?
スーパーのおつとめ品の惣菜が父さんの夕食だよ。
でも判断材料がないから保留。
もしかしたら異世界転生?
頭はイイけどオタクな父さんが夜中観ているアニメの定番だよね。
でも異世界転生といえば真っ白な空間じゃない?
あ、でも、スライムものは転生直後、真っ暗だっけ?
少なくても今の僕はスライムではない。
段々と考え現実離れしてきたところで、何か変化があったみたいだ。
ミョーに揺れる。
誘拐犯が僕を囲っている柔らかい箱?檻?ごと運んでいるみたいだ。
やはり監禁の可能性が高そう。
揺れがおさまったところで何か聞こえないかと、柔らかい壁に耳を当てた。
……何も聞こえん!
防音はバッチリみたいだ。
ふとバッグの中に子ども用のケータイがある事に気が付き、手探りで探してみた。
……あった!
ボタンらしきものをポチッと押したら液晶画面がわずかに光を放ち、密閉された空間を照らした。
分かった事はこの空間が狭い事。
そしてじっと座る事しか出来ない事。
あっ、電話!
急いでお母さんへ連絡しようと、短縮ダイヤルの1のボタンを押して通話を試したけど、ツーツーツーという音だけ。
どうやらここは電波が通じていないみたいだ。
……という事は山奥?
いや待て。
用水路は山へは通じていないぞ。
川下は海だ。
……という事は船?
僕は溺れていたのを船に拾われて、箱か何かに閉じ込められているのか?
それじゃ僕は外国で売られちゃうの?
頭の中で結論がまとまりだした時、急に光が入ってきた。
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