6話 優しい誘い


「どうしてこんなところで泣いてるの?」


 ルイちゃんはゆっくりと歩いてきて、ミサの隣に屈みました。


「ルイちゃん……ぐすっ……」

「よーしよしっ、大丈夫だよ」


 ルイちゃんがぎゅっと抱きしめてきました。

 温かい腕の中で、わしわしと頭をなでられます。

 ルイちゃんからは良い匂いがしました。お日様のような匂いでした。


「悲しい時はね、こうやって暖かくすると良いんだよ」


 わしゃわしゃと撫でられていると、気持ちが落ち着いてきます。

 ミサはその暖かさに、また泣きそうになりました。


「ありがとう、ルイちゃん」

「いいのいいの。で、どうして泣いてたの?」


 ミサは涙を拭きます。

 気になっていたことを、ルイちゃんに訊くことにしました。


「あのさ……どうして、魔女狩りをするの?」


 炎が上がっている広場からは、悲鳴が聞こえなくなっていました。

 ルイちゃんはぽかんとした顔をしていましたが、「決まってるじゃん?」と口を開きました。


「それは魔女が悪いからだよ」

「え?」


 心臓が凍ったような冷たさを、ミサは感じました。


「魔女が病気を持ち込んだの。そして、みんな死んでいった」


 ルイちゃんの説明は、さっきの酔っ払った大人に言われたものと同じでした。やっぱり悪いのは魔女らしいのです。


「病気って……だからみんな、顔に布を付けてるの?」

「そ。マスクをして防いでるんだよ。ま、わたしは意味ないと思うけどねー」

「でもそれって、ほんとうに魔女が悪いの?」


 ルイちゃんは「もちろん」と言いました。


「魔女は悪いやつって、みんな言ってるよ?」


 “みんな”って誰だろう。

 ミサにとっては、ルイちゃんと酔っ払いの男性のふたりしか言ってません。

 アニカちゃんとエマちゃんはそんなこと言ってませんでした。

 みんなって誰なんだろう。ミサはまた泣き出したくなりました。


「それにさー、邪魔な奴がいなくなるからね」

「邪魔って、そんなひどいこと……」

「ひどいよね。でもみんなそう思ってるんだよ。みーんな悪いやつだよね」


 ルイちゃんはにっこりと笑いました。

 ミサはぞくりとしました。

 アニカちゃんに見せた、あの怖い笑顔だったのです。

 ミサは何も言えずに震えました。口が開きません。


「ミサ、明日のパーティー来てくれない?」

「えっ?」

「あたしの友だちみーんな呼んでさ、楽しく遊ぶんだ!」


 ルイちゃんのパーティー。

 アニカちゃんを誘ったものと同じものでしょう。


 ミサは後ろめたい気持ちでした。

 これ以上ルイちゃんと仲良くなったりシたら、アニカちゃんが悲しみます。


 でも断ったりしたら——今度はミサがいじめられてしまうかもしれない。

 そう思うと、身体の震えは強くなりました。


「どう? 来てくれるよね?」


 ルイちゃんの笑顔。

 アニカちゃんに言った「来ないと殺す」という言葉。


「うん……行くよ」


 にへら、とミサは笑いました。

 自分でも酷い笑みをしているとわかりました。


「ほんと? うれしい!」


 ルイちゃんはまたぎゅっとミサを抱きしめました。

 むぎゅっと顔が潰れる中、ミサの嘘笑いは消えませんでした。


「みんなに自慢するね。あたしの友だちのミサだよって!」


 ミサはもう、泣き出したい気持ちでいっぱいでした。

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