第8話 忠告、結果。
祭りが行われている間、ほとんど俺と有谷は一緒にいた。
かき氷や焼きそば以外にも、たこ焼きや水笛やクレープの店があったが、俺達は他の屋台に行かなかった。有谷が今年のうちのクラスの学園祭の出し物のことを話したり、数ヶ月後の修学旅行の話をしたりしたが、どうにも俺にはのれなかった。
どうしても、頭の片隅に有谷がだんだんと潰されていく時の悲鳴がこびりついて、とれそうにない。
「久しぶりに話ができて嬉しかったよ」
屈託のない笑顔からして、純粋に嬉しいと思ってくれていることが分かるあたり、彼の会話にのれなかった自分に嫌気がさす。しかし、それでも、自分が数少ない知り合いの死にここまで心を痛めることができることに、自分の人間らしさを感じて、ほっとした。
これで俺が有谷の死をすぐに忘れて、自分の日常に戻っていたら、俺は俺のことを幻滅していただろう。
しかし、祭りでのことを反省するよりも前に、俺のぐちゃぐちゃの気分は全て打ち壊されることになった。
古いスマホに、有谷からの新しい連絡が来た。
今度は先に日付を確認する。日付は前と同じ八月八日。時刻は八時半。今度は映像ではなく、メッセージだ。
『真博くんの忠告を聞いていたのに、こんな結果になって本当にごめん。俺は今から殺されると思う。今、山の中で追われてて、走ったところで逃げれそうにない。相手には車もあるし、足も怪我しているから……』
俺は絶句した。
本当に俺の忠告はなんだったのか。
いや、そもそも俺はちゃんと有谷に忠告したのか?
俺が言ったのは八月八日に変な儀式に巻き込まれて岩に押しつぶされて有谷が死ぬ、ということだけだ。
映像に写っていた白岩という別クラスの女子生徒のことはなにも言っていない。
もしかして、有谷は知り合いからの誘いなら別に大丈夫だろうと出かけたのか?
大いにあり得る。
俺のことを一度も疑ったことがないほど、有谷は人がいい。ならば、普段からつるんでいる同じ陽キャ集団の人間のことは俺以上に信頼しているはずだ。
きっと陽キャ仲間の白岩から一緒に夏休みにどこか行こうと言われたら、有谷はすんなりとついていってしまうのだろう。
俺は新しいスマホを手に取って、有谷にメッセージを送った。本当は通話の方がいいと思うが、俺は人と通話をできるような性格をしていない。
『もし、知り合いに八月八日、どこかに行こうと言われても絶対についていくな』
そう送ると、数分も経たずに返事が来た。
『えっ』
その二文字にとても嫌な予感がした。
『ごめん、知り合いならいいと思って、もう行くって返事しちゃった』
嫌な予感は的中した。
俺は天井を仰ぎながら、頭を抱えた。
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