第5話 陰キャの連絡の仕方


 さて、それでも有谷は一応俺にとっては知った仲だ。

 あいつが陽キャの頂点にいようが、そうでなかろうが、未だに俺の超能力のことを覚えていて、それを利用して俺に助けを求めてきたのなら、救おうとしなければ後味が悪い。

 しかし、困ったことに陰キャであり、噂話を話してくれそうな友人もいない俺が白岩という女子生徒のことを知ろうとしても、成果は一切出なかった。

「ツインテールの、あの灰色のリボンの女子生徒って……」

「女子生徒に知り合いなんていないって」

 数少ない陰キャ仲間の友人に話を聞こうとしても、なしのつぶてだった。

 どう考えても全く話したこともない別のクラスの女子生徒の情報を手に入れるなんて、ハードルが高すぎる。

 俺は早くも有谷のことを恨み始めていた。

「もういっそのこと有谷に話をするか……」

 一応、俺の方から距離をとってしまっていたが、俺と有谷は小学校からの知り合いだ。中学校も同じ学区の人間ばかりが通う場所だったため、必然的に一緒の中学だったし、なんの因果か、高校も一緒になった。

 それに小学校の頃は数年間、俺の家に毎週のように遊びに来ていた仲だ。一応、本当に一応、友達と言えるんじゃないだろうか。いや、幼馴染……腐れ縁か?

 全く話したこともない女子生徒の情報を探るために今まで一度も世間話をしたことがないクラスメイトに話を聞いて「え? なんでそんなこと聞くの? 気持ち悪……」と思われるぐらいなら、断腸の思いで俺は有谷に話しかけようじゃないか。

 そう意気込んでから、三日が経った。

「皆さん、明日から夏休みに入りますが、くれぐれも気を引き締めるように。長い休みだからと言って、嵌めを外してしまうと取返しがつかないことになる可能性もあるので、きちんと本校の顔であることを意識して、休みを過ごしてください」

 夏休みに突入する寸前の浮足立った空気は、いつも以上に固い言葉の担任の台詞など掻き消した。

 窓から入り込む蝉の声の方が大きい。

 結局、三日間、俺は有谷にも話しかけることができなかった。

 授業の合間にも、昼休みにも、放課後にも、有谷の周りには人がいる。その人の波をかき分けて、俺が有谷に近づくことなんてできやしなかった。俺ができるのは、ちらちらとクラスメイト達に囲まれた有谷を盗み見るくらいだ。毎回一秒にも満たずに目を背けるが。

 話したいことがある。人命に関わることだ。それでも、陰キャと陽キャの壁は大きい。俺は大きくため息を吐いた。

 そういえば、この前、有谷は俺に神社の夏祭りについて聞いてきたが、まさか来るつもりだろうか。前の祭りはどうだったか。去年は? 一昨年は?

 俺は家の手伝いでずっと雑用をやっていたばかりで、有谷が祭りに来ているかどうかなんて、気にしたことがなかった。もし、来るつもりなら、その時に話すべきか。いや、来ない可能性の方が大きい。

 とにかく、俺は俺の出来ることをしなければならない。

 そうでなければ、なにもせずに八月八日が来て、後には悔いしか残らない。

「久しぶり……は、いれなくてもいいか。とにかく、八月八日にはどこにも出かけるな、っと」

 有谷から動画が送られてきたのは、五年以上使い続けているスマホだ。現役を退いたとしてもまだまだ使える。動作が重いと感じれば修理に出していたから、使う分にはまったく問題はない。

 有谷が俺個人の連絡先をどうして知っているのか。その答えは、考えればすぐに分かった。中学生の頃にたまたま作られたクラスのグループチャットなるものから俺の連絡先を登録したのだろう。

 小学生の頃、有谷と一緒に未来からの連絡についての自由研究を行った結果、俺からの連絡はリアルタイムで相手に送られることは分かっている。

 だから、俺が今送った連絡は、そのまま有谷のスマホに届いているはずだ。

 返信はなかった。

 それもそうだ。

 いきなり小学校以来、ほとんどしゃべったことがない知り合いから連絡があったら、どうしたものかと思うだろう。しかも、その連絡の内容は「八月八日にはどこにも出かけるな」という意味の分からないものだ。

 絶対にやり方を間違えた、とメールを送った三秒後には流れるように俺は頭を抱えた。

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