第3話 微糖


 別に俺にできることがなにかある、というわけでもないが、どうしてもじっとしているのは気分が悪い。そもそも、有谷が死ぬような危険にさらされるとしても、陽キャと陰キャという身分がまったく違う俺に助けを求めるとは今までは思いもしなかった。

 しかし、有谷が普段話している連中にあんなヤバイ儀式のことを聞くよりも、神社の人間である俺に話を聞こうと思うのは当然かもしれない。

 あいつは俺が神社の人間だというのをよく知っている人間だ。たいして話したこともない他のクラスメイトは誰も知らないと思うが、有谷だけは特別だ。

 小学校の頃からの付き合いだから。

「はぁ……腐れ縁ってこういうことを言うのか」

 そんな言葉をぼやきながら、視線の行き場を探し、同じ階に並んでいる同学年のクラスを、怪しくない程度にチラ見しながら通り過ぎていく。行き先ならある。一階の端にある自動販売機だ。

 そこに行くついでに、未来の有谷から送られてきた映像に写っていた女子生徒を探す。関わったことがないにしても、映像に写った特徴的な灰色のリボンとツインテールは校内で見たことがある。

 あの目立つ髪型は有谷と同じ自分に自信がある陽キャにしかできないだろう。

「白岩(しらいわ)さ~ん、これ、職員室まで持って行って~」

「は~い」

 見覚えのある灰色を目に留めて、自然と歩く速度が落ちた。

 耳の上につけられた灰色のリボン。ツインテール。整った鼻。ラメが入ったリップを塗った唇。ここぞとばかりに目元にも色が入っている。

 うちの学校がある程度の化粧がオーケーと言っても、あれはやりすぎの部類に入るんじゃないだろうか。

 俺がその女子生徒を見ていたのは一瞬だったが、白岩と呼ばれた彼女が教室から出てきて、急に気まずくなった俺は視線を廊下に落として足早にその場所を後にした。

 儀式の場所にいた女が、別クラスに本当に存在していたと分かっただけでも大収穫だ。

 問題は、白岩という女子生徒が、儀式をする側なのか、有谷と同じく巻き込まれた側なのか、だが……。映像にあった彼女の嬉しそうな表情を見るに、十中八九儀式の関係者だろう。

 俺は階段を降り、目当ての自販機に辿り着いた。手持無沙汰になると、ここまでやってきて、微糖の缶コーヒーを買う。それが俺の日課だ。

 だが、今日に限って微糖の缶コーヒーが売り切れていた。

 俺は仕方なく、カフェオレを買った。カフェオレも嫌いじゃないだから、別にいい。残念だとか思ってない。

 それでも、有谷から送られてきたあの映像のせいで、わざわざ教室を出て、他の教室の前を通る口実まで作って、映像に出てきた人物の確認をしているという事態に俺は取り出し口から引き抜いた缶コーヒーを手に持ったまま、頭を抱えた。

「あー、もう! お前のせいだぞ、有谷!」

 俺は周りに誰もいないのを確認した上で、頭を掻きむしった。

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