第5話

ある日、彼と窓を拭いていたとき、彼にきいてみた。

「秋山くんって夢とかあるの?」

魔法が使える大学生の秋山くん。そんな彼に夢があるのだろうか。気になった。「あります!僕、歌手になりたいんです!歌うの好きだから。」彼はそういうと笑った。「そうなんだ。」と私は答えた。秋山くんってやっぱり子どもみたいだ。羨ましい、と思った。彼のまっすぐなところが。私は今までこんなふうに無邪気に夢を話せたことがあっただろうか。彼は窓を拭きながら歌い始めた。ラララ~、彼が歌い始めると、キラキラした光が入ってきた。窓の外では木が揺れている。まるで、秋山くんの歌に合わせて踊っているみたいだ。彼が歌うと、自然が喜んでいるんだ、そう思った。

彼のことで、もうひとつ、気づいたことがあった。魔法以外で。そう、彼は私に惚れているのだ。たまに彼のことを褒めると、頬がピンク色に染まるのがわかる。それと同時に店内の照明もピンク色に変わる。お客さんは呑気に「何か良い感じね~。素敵な演出ね。」などと言っているが、きっと彼の魔法のせいだ。ある日、出勤すると、レストランの中が騒がしい。おばちゃんが「店の電気がつかなくなったの。」と言った。「え。全部ですか?」「そうよ。全部。」店内は真っ暗だった。秋山くんが私を見つけて走り寄ってきた。「佐々木さん、おはようございます!」そのとき、店内がぱっと明るくなった。みんなは「ついた!」とか「良かった!」とか話している。

秋山くんは私に「佐々木さんきいてください。僕さっき、大切な書類を忘れちゃって。それで怒られちゃって。でも、佐々木さんに会えて元気出ました!」と言った。「電気がつかなかったのってもしかして・・・」そういうと、秋山君は「わざとじゃないんです。ただ、僕が落ち込んじゃったから、お店も落ち込んじゃったみたい。」といった。私は「秋山くん、だめだよ、こんなことしちゃ。」と言った。「わかってます。でも僕も止められなくて。」と秋山くん。彼はまじめな顔をしている。もちろんわざとじゃないのはわかっている。しかし、秋山くんの気持ちひとつでこんな問題が起こるなんて。このまま秋山君を放っといて良いのだろうか。店長は「佐々木さん、おはよう。さっきまで大変だったんだよ、なぜか電機がつかなくて。でもちょうどいまついたから、いつも通りオープンするよ。」と言った。私は店長に「秋山くん、辞めさせたほうが良いと思います。いろいろ問題も起こしてるし。」と言った。最後のほうは小声で。店長は「そりゃあ、初めてバイトしたらうまくいかないこともあるだろう。長い目で見守っていこうよ。」と言った。店長は優しいのかなんなのか秋山くんをかばっている。そういうのじゃないのに・・・歯がゆい。

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