第4話
次の日、目を覚ました。聞こえてくるのは、川が流れる音。鳥の鳴き声。木が風に揺れる音。気が付いたらこんな朝を迎えるのが当たり前になっている。自然に元気をもらう朝。なんて贅沢なのだろう。いつものようにレストランに行くと、もう秋山くんはきていた。「あ、佐々木さん、おはようございます!」彼は昨日と変わらず、キラキラした笑顔でそういった。「秋山くんおはよう。今日は夕食の説明をするね。お皿類はここにあるから、ここから出してね。おしぼりはこの引き出し、箸は下の引き出しに入ってるよ。」「はい!」秋山くんは返事をしながらメモを取っている。私たちは担当のテーブルに移動した。店内は広いので、それぞれで担当する場所が決まっているのだ。「よし、じゃあ早速箸を机に並べるよ。箸はどこにあったか覚えてる?」「はい!」「よし!じゃあ、持ってこれるかな?」「はい!」
秋山くんは笑顔でそういった。そして、そのまま固まっている。
「えっと・・・場所はわかるかな。」そうきくと、秋山くんは「はい!」と元気よく返事をした。しかし、やっぱり一歩も動かない。私は戸惑いながら秋山くんを見つめた。秋山君は一歩も動かないまま手を差し出した。手には箸が握られていた。私は「えっ・・・」と言ったきり言葉がでなかった。
「魔法で持ってきました!」
「まほう?」
「僕実は魔法が使えるんです!ここだけの秘密ですが。」
彼は何を言っているのだろう。遊んでいるのだろうか。そうだ、こっそり、箸をポケットに入れていたのだ。それで、手品をしているのだ。きっとそうだ。私は「もうー、やめてよー。」と笑った。すると、彼の目がいっそうキラキラ輝いた。「おしぼりも出しますね。ちょっと待ってください。」そういうと、箸を机の上に置いた。彼が手のひらを差し出すと、もう次の瞬間にはおしぼりが手の上に置かれていた。今度こそ、驚いた。彼はあまりに手品がうますぎる。彼はこんな特技を持っているなんて。マジシャンになったほうが良いのではないだろうか。「すごい!」「えへへ」「マジック上手だね!ほんとに魔法みたい!」私はそういった。もう完全に仕事中ということを忘れていた。彼はニコっと笑うと「だって魔法だから。僕、役に立つでしょ?」と言った。「ほんとに魔法なの?」ときくと、「ほんとだよ。」と答えた。それから彼は魔法でお皿を出してみせた。私は興奮して、「すごいすごい!」と言っていた。
確かにこれが店長やみんなにバレたら面倒なことになるだろう。「魔法」に理解のある私だから通じるものの、普通の人なら受け付けられない。私が彼の魔法を受け入れられたのは私が普通の人よりも好奇心があるほうだからだ。それに、何かを求めていたからだ。私はここでの生活に満足している。そう思っていた。でも自分でも気づかないうちに何かを欲していたのだろう。きっと。何かが起きるのを。
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