第7話 第10回大賞受賞作「塩の街 Wish on my precious」

 今回は第10回電撃大賞受賞作品「塩の街 Wish on my precious」を取り上げたいと思います。


 2003年受賞、2004年2月刊行の作品ですから、もう20年も前の作品になりますね。

 著者の有川浩氏(※現在は「有川ひろ」に改名)はこの作品でデビューしたものの2作目からはライトノベルを書くことはなく、一般作家として人気を博しています。

 この作品も現代を舞台にした作品で、やや「普通のライトノベル」と比べると趣が違っているのも特徴です。

 ただ、「普通のライトノベル」というのも難しい問題で、そちらの問題はひとまずおくことになしましょう。


 ジャンルはポストアポカリプス(「北斗の拳」などの文明が退廃した後の終末的な世界観)ものです。

 とは言ったものの、辛うじて文明は残って日本政府が配給とかをしているので微妙なところではありますが。


 舞台は「塩害」によって壊滅した現代日本。

 この「塩害」は文字通りの意味ではなく、人間が塩と化してしまう現象であり、これにより大幅に人口が減ってしまった社会。

 その中で生きる無力な人間の女子高生を描いています。


 その後の著者の活動からも分かる通り、この作品はかなり一般文芸よりです。しかし、それでも「ライトノベル」というジャンルに非常に上手くアジャストしている印象があります。

 それが当時のライトノベルの流行りであった「セカイ系」(「キミとボク」の関係が「世界の運命」に直結しているジャンル)を非常に上手く作中に取り込んでいる点です。

 それでいてファンタジーに偏り過ぎてもない、壊れかけた現代日本を臨場感をもって描いている作品です。


 主人公は無力な女子高生(と同じ年代)で両親を塩害で亡くしてしまった結果、家に1人で取り残され暴徒に襲われかけます。

 ここの描写がなんと言いましょうか、エグいんです。

 玄関のドアが破壊されようとる描写、インターフォン越しに聞こえる男たちの下卑た会話の暴力性、何の武器も持ってない主人公。

 読んでいて非常に心細くなってくる箇所で、読者である自身が男性であることが申し訳なくなってくるくらいに心にくる描写でした。


 現在、容易に入手できるのは角川文庫版(電子書籍もこの版です)で後日談が書き足されているのも特徴です。

 電撃文庫→単行本→角川文庫と紆余曲折を経た作品であり、受賞当時の後書きが今となっては読めないのは残念でありました。

 wikipediaに寄れば登場人物の年齢設定が変わったとあります、主人公の女子高生の年齢が18歳だったのが(電撃小説大賞受賞作品の登場人物にしては)意外だったので、そこらへんが変わったのかもしれません。


 全体的には恋愛モノなんですが、舞台背景のポストアポカリプス感や妙にエグい暴力性などが印象に残った作品でした。



 

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