第6話 第26回大賞受賞作「声優ラジオのウラオモテ」

 今回は第26回大賞受賞作、「声優ラジオのウラオモテ」を取り上げたいと思います。

 比較的近年の受賞作品で現在(2023年8月)までに8巻までが刊行中となっており、2024年にアニメ化も決定している人気シリーズとなっています。


 ストーリーは駆け出しの売れない声優(高校生)が人気急上昇中の声優とコンビでラジオ番組をすることになるが、その相手が相性最悪のクラスメイトだった。というものです。


 ジャンルとしては女子高生お仕事小説。

 百合的なところもありますが実質的には女同士のホモソーシャル感が強いですし、コメディ的な要素もありますがアツい要素もあるといったエンターテイメントとなっています。


 特徴的なところはメインの登場人物に男性がほとんど出てこないところです。

 唯一、木村というクラスメイトが出てきますが、このキャラの面白いところは選評における三雲岳斗氏のコメントの中に「クラスメイトが悪役として救いのないまま退場して残念」というものがあって、受賞→刊行の段階で役回りが変わってしまったキャラクターのようなんです。三雲氏のコメントを読んでから木村の描写を読み返すと確かに悪役としての成長を途中までは確実に遂げているのが確認できて面白いです。


 メインの愉しみどころは、主人公ギャルと地味系女子の二人の相性は最悪。それでも仲が良いという「設定」を守って番組をやっていかなければいけない。この二律背反に苦しめらながらも異文化の領域に住む二者が恐る恐る交流していく点にあります。

 古い漫画にあるような「親の決めた許嫁だから世間的には仲良しアピールをしなければいけない!」の亜流バージョンです。

 鉄板に面白いシチュエーションとも言えましょう。


 あと、感心した部分なんですが章間に差し込まれる「夕陽とやすみのコーコーセーラジオ!」というラジオ番組のパートが普通につまらないことです。

 で、このラジオは作中で打ち切られるという展開を迎えるんですが、それも納得できてしまうつまらなさなんです。

 一方で地の凸凹主人公コンビの掛け合いは面白く、このギャップ感も面白かったりします。「あなたのそういうところ、本当に嫌い」というヒロインの口癖はどうかと思いますが。

 とはいえ、この口癖がきちんとエモーショナルな場面で活用されているんで、物語上必要だとは思うんですが。(それでも良くない言葉だとは思います)


 唯一の難点は主人公とヒロインが佐藤由美子(芸名:歌種やすみ)と渡辺千佳(芸名:夕暮夕陽)と主要人物が2人なのに名前が4つあって、割と混乱するところくらいです。


 完成度の高くおすすめの作品です。

 

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