第5話 第14回大賞受賞作「ほうかご百物語」

 今回は第14回大賞受賞作「ほうかご百物語」を紹介したいと思います。


 ライトノベルではやや珍しい(ライト文芸だと多くて「あやかし」というジャンルがあったりします)妖怪をテーマとした小説になっています。

 いきなり余談になりますが著者の峰守ひろかず氏は妖怪をテーマにした小説を多数書き続けていて、「妖怪大戦争」「ゲゲゲの鬼太郎」のノベライズも手掛けていたりします。

 妖怪小説家≒京極夏彦というイメージ(実際に「妖怪小説家でググると京極夏彦氏の名前が一番に出てきます」)がここ30年くらいある日本の文芸界で、その分野を専門にするというのは実にすごいことなのかもしれません。


 さて、第14回電撃小説大賞というと2008年2月の刊行。

 この頃のライトノベルというと「涼宮ハルヒの憂鬱」が絶好調の時期で、ライトノベル全体で「謎部活モノ」というジャンルが流行していた時期でもありました。

 この作品もその流れを汲む作品であると思われます。


 主人公が属する美術部に様々な妖怪絡みの相談が持ちかけられて、イタチのヒロイン(狸や狐と同種の妖怪という位置付け)と共に解決していくストーリーになっています。


 全体的にほのぼのとした雰囲気で、妖怪との対決もそれほどの緊張感がありません。

 妖怪の打倒にもロジックがあって、見越し入道には「見越した!」と言えば退治できるなどの、謎を解く要素もあります。


 個人的に電撃小説大賞には3種類あると思っていて、

1.攻めている、今までにあまりなかったジャンルの作品。

2.レベルが高くてまとまっている作品。

3.なんだかよくわからない作品。

 の3種類で、この作品は「2」に当たるんじゃないかと思ってます。

 全体的に面白いし、キャラクターもいいですがパンチ力に欠ける的な感じです。


 あと、個人的に作者の意図とまったく関係ない点で面白いと思ったのは、こんなところです。


「先輩はいきなりメモ帳替わりのPDAを取り出し、慣れた手つきで何やら入力し始めた。机の上で空しく唸るノートパソコンの存在意義が気になるが、以前尋ねてみたところ『用途と気分で道具を使い分けるのがプロのプロたる所以』なんだとか。素人の僕にはわかりません。」

(「ほうかご百物語」より)


 PDAはPersonal Digital Assistantの略、個人向けの情報端末の事でスマートフォンの登場と共に淘汰されたもので、2008年当時だと最先端家電を操る奇人描写となっていますが、時代を経て読んでみると割と普通な人になってしまっています。


 個人的に昔の小説を読んでいての醍醐味は、時代を経て作者の意図とはまったく関係なく時代性を得てしまった描写というのが見られる点でもあります。

 現在はkindleunlimitedに全巻入っているので気軽に読むことができるので、お勧めしときます。

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