第1話 命稼ぎ

 私は騙され、処刑された。執行者に何度も刺され、私は死んだ。此処は天国か、それとも地獄か。


 私は目を覚ますと、真っ白だった。見渡す限り上下左右全て白。体は空気の様に軽い。


 しかし真っ白とは真反対の存在が目の前に居た。黒いロープを全身に纏い、片手には等身大の大鎌、そして頭部から見えるその顔は骸骨であった。私は、目の前の存在を死神だと認識した。


 死神は私の理解が追いつく前に声を出す。


「よぉアレックス。待ってたぜ。俺様はお前の考える通りの存在。死神だ。

 だがここはまだ天国でも地獄でもない。その狭間といえば分かりやすいか?

 俺様の仕事はお前の魂をどちらかに渡すというものだが……俺様はお前を哀れんでいる。


 あんな死に方、納得いかないんじゃ無いか? あぁ、お前にとってはどうでもいいことか? だが俺様が人間なら納得いかねぇなぁ……」


 さっきまでなんの話をしているのだ。死神ならさっさと私を地獄に送れば良いものを。


 

「まぁ、聞けよ。俺様はお前にチャンスを与える。と言ってもお前は興味が無えだろうが……ちぃと神様の願いくらい聞き入れろや。

 お前は今から俺の頼み事を聞けば、次の次の生では足を洗った平穏な生活を送れるだろう。


 だぁが……その前に俺を手伝え。お前にはその素質がある。俺様の頼み事を引き受けられる程のな」


 足を洗って新生活か。まぁ、それも悪く、無いのか……?


「おっと食いついてきたか? ならばそろそろ本題に移ろう。

 単刀直入に言う。犯罪者をもっと殺して、魂を狩り、俺様の成績を上げてくれ」


 は……? まさかお前の宿題を私がやれというのか?


「ま、簡単にいえばそう言うわけ。別に俺様の成績は悪くは無いんだがなぁ……。まぁなんつーか平坦というか。

 このままじゃあ昇級できないというか。つまりお前は俺様の出世を手伝えということだぁ!」


 ババーンと後ろで効果音が鳴っているかのような指差しを私は受けた。

 ……まぁいい。私は元より生き返ることなど興味はない。可能であるのならという話だ。

 その仕事、引き受けてやる。


「オーケー! ならば話は速い。早速だがお前にスキルを与えてやろう。死神特製の最強スキルだぜぇ?

 こんなのが普通の人間が使えば……使えば……。別に悪かぁ無えが、この世の全ての生物が滅ぶだろうな。うん」


 だが私は首を傾げる。スキルとはなんだろうかと。


「細えことは自分で理解しろ。とりあえずお前にあげるスキルは、これだぁ……」


 死神は私の前で指を鳴らすと、私の目の前の空中に、文字が浮かび上がった。



名前:Alex Reynolds(アレックス・レイノルズ)

性別:男

年齢:28

身長:182cm

体重:75kg

職業:執行人


スキル:

・執行

相手の意思問わず、一撃で生命を絶つ。


「正に一撃必殺。この世が滅ぶのも分かるだろう?

 お前がこれで刈り取った魂は、俺の今後の成績に直結するが……、まぁあとは色々と面白え性能してるから、自分で殺しまくってくれ。


 あ、でも、俺様が言った通り。無罪の人間や生物は殺すな。

 相手が犯罪者かどうかの判断はお前の裁量に任せるが……無視したらペナルティーだ。どんなペナルティーかはお前がいつか無視した時のお楽しみだ」


 そう、か。それで? 私は死神の仕事を……。


「そう。別の世界で。お前はもうあの世界じゃあ処刑されている身だからな。存分に別世界を謳歌してくれやぁ。

 んじゃ、そろそろさらばだ。不安なら月一でテレパシー送ってやろうか? いや、送る。

 それじゃあ、いってら〜」


 死神は私に手を振ると、私の視界はすぐに暗転した。


◆◇◆◇◆◇


 私はまた目を覚ます。次に視界に映った物は、見渡す限り地平線まで広がる草原だった。

 そして、目の前には……涎を垂らし、全身焼け焦げた様に赤黒く、頭部から口が一つかっ開き、鋭い牙が光らせる。異形の化け物が唸っていた。


「グルルルル……」


 これが最初の仕事のつもりか。

 私はすぐに自分の全身を見渡す。どうやら服装は死ぬ直前までに、着ていた黒のロングコートに、黒のワイシャツと黒のスーツズボン、そして革靴のままだった。


 ならば武器は? と、コートの懐を探れば、一本の鋭利な両刃のレイピアがあった。

 私がいつどこでも仕事が出来るように持ち合わせていた剣だ。


「さて……」


 私はレイピアを鞘から引き抜き、片手にぶら下げれば、すぐさま獣は私に大口を開けて飛びかかってきた。


「グルルルラァッ!!」


 私は特段に鍛えている訳ではないが、処刑の際に相手が逃げないようにする技は持っている。

 勿論、反撃に対する技もだ。


 私は冷静に、一息吐いた直後、レイピアを真っ直ぐ正面に。獣の開ける大口、喉奥に向かって素早く突き出す。


「ゴヒュッ……!? グガァ! ガァッ!」


 そして私は獣の喉を貫通したレイピアを持ちあげ、勢いそのまま振り抜く。


「ガ……ガヒュッ……ヒュー」


 どうやら一撃で仕留められなかったようだ。だがその苦しみもすぐに終わらせる。


「死ね」


 私は一言告げて、レイピアを獣の喉仏をもう一度突き刺し、捻る。

 そうすれば獣は急に白目を剥き、まるで魂が抜けたように力尽きた。


 すると私の目の前にまた文字が浮かび上がった。


執行:1

残機:1


 この数字は……なんだ?

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