丑三つ時に来店音
第4.4話 深夜●時・御来店
深夜のコンビニ。あの、角にあるコンビニ。
店の中には自分一人。店員はなぜか、何処にもいない。
店内放送は鳴り続ける。いつも通りのいつもと同じ音楽と案内を垂れ流す。
なのに誰もいない。
ポテチとジュースと雑誌を持ってレジに行っても誰もいない。
「すいませーん」
声を出しても誰もいない。店内放送だけが流される。
「すいませーん」
もう一度呼んでも、誰も来る気配はない。
諦めて帰ってしまおうか。商品をカウンターに置いたまま出入り口へと向かう。
誰もいない。
誰も来ない。
変なコンビニだ。
その時、突然何の前触れもなく店内放送が途切れた。電気は消えていない。流れ続けていた音だけが突然途切れた。
夜の静けさの中で機械音だけが暗く響く。うるさいと感じていた程の賑やかな放送が消え、店内は電気がつけられただけの夜の空間へと変わってしまった。
自分の胸が膨らみ、萎むのを意識してしまう。ドクドクと脈打つ心臓と、流される血液を意識してしまう。息が荒くなっているのがわかる。興奮ではなく、緊張から体が高ぶっていた。脳内ではノルアドレナリンが分泌されている。心よりも体の方が素直に顕著に反応を示す。
ただ、店内放送が途絶えただけなのに。
ただ、深夜のコンビニにいるだけなのに。
ただ、誰もいなくて、自分しか其処にいないだけなのに。
明るい店内を得体のしれない夜の闇が這いずってくる。何処からか、床を這って近づいてくる。
そんな不安を、恐怖を、言葉にできないナニカを感じ始める。
頭上からは微かに雑音が聴こえてくる気がする。沈黙ではない方が救われる。その静けさの中にいたくない。
外へ出てしまえばいい。其処から逃げてしまえばいい。
そう頭では思っているのに足が動かない。床に縛り付けられたかのように一歩も動かすことができない。
ぐるりと首を回す。
山積み谷積みの商品棚。その下の床と棚板の僅かな隙間。其処に目がいく。
手がやっと入り込める程度しかない僅かな暗い隙間。おそらく屈んでも奥まで見えないだろう隙間。
其処に何かがいる気がする。
誰もいないのに。
其処にはナニカがいる気がする。
其処からナニカがやってくる気がする。
背中から誰かが笑う声が聞こえた気がした。
振り返っても誰もいない。
「だ、誰かいますかー」
声をかけても誰もいない。
誰も。
いない。
誰も。
店内放送は途切れたままだ。外の道路をバイクが通り過ぎたようだった。その音は聞こえただろうか。
誰かの視線を感じる気がする。何処から。何処から。すぐ其処から。近い。近い。すぐ近くから見られている。誰だ。誰だ。すごく近い。
ふと、カウンターの奥にある扉に目がいった。僅かに開いた扉。電気のつけられていない暗い部屋。其処から聴こえてしまった。
タスケテ
背中から誰かが笑う声が聞こえた。
足に何かが絡まった。五本指なのか、わからない何かが絡まった。
自分は。
逃げられなかった。
誰もいないコンビニだった。
何かがいたコンビニだった。
ある時間、店内放送がぶつりと途切れた時、聴こえてはいけないナニカが這い寄ってくる。
その静けさの中で、誰かを引き摺る音だけ残したコンビニは。
××××××××××××××××××
そんな深夜●時のあのコンビニの話。
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