第4話 佐藤の終わり

佐藤さん。佐藤さん。

あんた、なんていうものを撮ってしまったんだ。

佐藤さん。

きっと、もう、この世にはいないだろう動画投稿者。


なんで佐藤さんはあのコンビニをテーマにしようと思ったんだろう。よりによって「あの」コンビニを。

せめて他の場所だったら命は救えた?

そんなことわからない。廃病院の動画を作った山田さんだって行方不明になったんだ。

いや、違う。

二人の人生のラストはどちらも「不可解な死」となってしまった。彼らが望んだものとは別かもしれないけど、ホラー動画を探し続けた人としては充分に「らしい」エンディング なんじゃないかと僕は思う。




では、ここにいる君たちだけに公開しよう。佐藤さんが遺した、とっておきのエンディングを飾るホラー動画だよ。

ご覧あれ。




カメラ①入り口

2:00 女性が立っている

4:00 砂嵐

6:00 女性はいない

8:00 (エンドロール)


カメラ②事務所

2:00 画面が暗い?

4:00 タイルが少しずつ開いていく

6:00 タイルが少しずつ開いていく

8:00 タイルが全開となっている


カメラ③後方から

2:00 画面が黒く?見えている

4:00 異常なし?

6:00 一瞬何か動くのが何度か起こる

8:00 真っ黒


音声

2:00 時々念仏、経が聞こえる

4:00 機材を取り外す音

6:00 物が動く音「ガタ」

8:00 子どもの笑う声「キャハハ」




ここまでが「投稿動画」として成り立つ部分。問題は、そう。この後。


佐藤さんがカメラを回収しに来たのは朝8時以降。カメラは順番に回収されていく。されていくはずなんだ。

後で知ったことなんだけど、佐藤さんは始めカメラを回収しに来る気はなかったそうだ。同じグループの田中さんに聞いた話だと。ダカラ、ダレカガカレヲソコニヨンダハズナンダ。ダレガ? ナニガ?

山田さんみたいに自分でカメラを持って直接撮影しながら実況するスタイルだと、何かあった時の対応が難しい。山田さんは臨機応変にできる人だったから廃病院へ乗り乗り込んで行った。

この「何か」っていうのはケガとか機器の故障みたいなアクシデント。それと、怪奇現象が実際に起こった場合。

意外なことだけど、山田さんはそれなりに霊能力って言われる類いのものを持っていたんだってさ。「見える」し「感じる」。だからホラー動画を観てホンモノかニセモノか判断できる。

ホンモノなら目を合わせないようにできるし、ニセモノなら指摘できる。まあ、ごたごたが嫌いな人だったから批判コメントはしなかったらしいけど。

それに対して佐藤さんはそっち方面の人じゃなかった。全くの零感ってわけでもないけど、強いていえば現代人。機械に強い。

心霊現象否定派じゃないよ。そうだったらホラー動画探し隊なんてグループ入ってるはずないって。

彼は「見えない」代わりに冷静なコメントをする人だった。「見える」人の意見を尊重して、分析する。だから好んで「ヤバい」って言われる件を踏むような人じゃないんだ。


何かきっかけがあったのかも。それか、縁があったか。どっちにしろ悪い方へ向かうものではあったね。

命が向かう方向は誰にもわからない。それこそ、神様の御心次第だ。

僕が「あのコンビニ」の動画のことを聞いたのは事後だった。もう、製作のことが決まってしまった後。

自分でもウザイだろうなって思うくらい口出しした。なんだこいつって思われても仕方がないコメントばっかり送った。それを佐藤さんはちゃんと読んでくれて、内容を信じてくれて、僕に返事をくれた。


あの場所には何回も行くべきじゃないんだ。できれば一度だって行くべきじゃない。行っても帰ってこれるかわかんない。帰してくれるか怪しいヤツがいるんだから、まさに行きはよいよい帰りはこわい。

佐藤さんは、そうなっちゃった。

僕の忠告を無視したんじゃないよ。もうあのコンビニの動画を投稿することは決まっていて、一部では告知までされていた。佐藤さんは引けなくなっていたんだ。

その時にはもう、一人目の山田さんは。













その動画のラストは、三つの画面それぞれに映るナニかのアップだった。

二つは、手。爪が剥がれた指先が真っ赤だった。

そして、残りの、一つに。

口を真っ赤にして笑う子どもの顔が移っていた。

その子は、楽しそうに、楽しそうに、口を開いて、笑っていた。



一瞬、入り口に立つあの女性が映り込んだ気もした。







これで、コンビニの話は終わりだよ。

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