放課後

ヤチヨリコ

放課後

「――!」


 ……ううん、なんだよ、うるさいな。


「――き!」


 耳元で叫ばれて、肩をガンガンに揺すられる。


「幸喜!」


 パアン!


 そして、頬にきつい一撃。


「聞いてるの、幸喜!」


「いってえな」


 辺りを見渡すと、他の客がこっちを見ていた。

 迷惑になるといけない。


「……なんだよ」


 反射的に声をひそめる。


「幸喜がちゃんと聞いてないのが悪いんじゃん」


 遥は頬を膨らませる。


 わざわざ俺を放課後に呼び出しておいて、ひどい仕打ちだ。

 授業中、あんま寝れなかったから、眠いってのに。


 明日、俺の顔が腫れてたらどう責任をとらせようか。


「ふあぁ〜……」


 あくびを一つ。


 それを見た遥は、女子がしてはいけないような顔をして、俺をにらむ。

 こいつの本性を知らないやつが見たら、どういう反応をするだろう。まあ、今までの印象がひっくり返るのはたしかだ。


 去年のミスコンで優勝してから、遥は学校のヒロインになった。


 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、ではないが、ただ座ったり立ったりするだけでも、注目の的になる。歩けば、観衆の視線はこいつに釘付け。


 幼なじみとはいえ、こいつのそばにいると、正直疲れる。

 だから、距離を置いていたのだが……。


「ねえ」


 そこからどう言葉を続けるか、遥は迷っているようだった。


「幸喜」


 遥が意を決したように俺の目を見つめた。


「あたし、あんたのことが好き」


 その顔は真っ赤だ。


「だから?」


「だから、って、わかるでしょ?」


 何が言いたいのか、さっぱりわからない。


 遥は忙しなく指をいじったり、うつむいたり。

 視線も宙をさまよっている。


「あたしと……付き合ってよ」


 最後のほうは小声だった。


「ごめん、無理」 


「は? なんで!?」


「俺、おまえのことそういう目で見れない」


 遥はしばらくポカンとしていた。

 だが、ようやく俺の言葉が呑み込めたのか、目に涙を浮かべた。


「ねえ、なんで? なんでよ!?」


 俺の胸にすがりつく遥を見て、やっぱ無理だ、と思った。


 昔からうんざりだったのだ。こいつの世話をするのは。

 言葉はきついし、態度もきつい。暴力も振るう。

 これで好きになれっていうのは、無理な話だ。


 もう付き合いきれない。

 明日からこいつとは別の帰り道で帰ろう。そうしよう。

 ――ああ、時間を無駄にした。

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放課後 ヤチヨリコ @ricoyachiyo0

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