第101話:お風呂で二次会の前哨戦?



 お風呂場にて。


 家族四人。


 母二人と、娘と、息子の、四人。


 母に背を洗われる息子。


「前はぁ、自分で洗ってねぇ……アカネちゃんでもいいけどぉ?」


「自分で洗うよ!?」


「それか、もぉ、このままぁ、ここで二次会ヤっちゃぅ?」


 今度は息子の頭を洗いながら、またもや雪枝爆弾。


「それもいいかなって話してたんだけどね」


 爆弾に爆弾で返す美里。


 アカネもうんうん、と、頷いている。


「ちょっ! ここは狭いから、ダメだよ」


 と、論理武装で鎮火に走る、雪人。


「まぁ、確かに。九と六それぞれ単独ならともかく、同時は難しいかぁ」


 そして納得の女性陣。


 そんな話をしながら、母と交代して今度は母の背中を流す。


「言い出す前に言っておくけど、前は自分でやってよ?」


 母の言動を先読みする雪人。


「ちぇぇ……」


 雪人くん、鋭い。


 そんなやりとりを、湯舟の中でケラケラと笑いながら、母と娘。


「雪人くんの見たし、わたしも見せた方がいいかな?」

「そうね、わたしはともかく、アカネは妻として見せとかないと」


 もう、そこらじゅうに爆弾が転がっている。


 ここは地雷痴態か?


 いや、これは地帯の誤変換ではなく。


 もう、そう言ってもおかしくないくらいに。


 しかし、雪人も。


 母の髪を洗いながら、『見られたのだから、見ても』と。


「じゃぁ、見せてくれる?」


 わりと素直に。恥ずかしがらずに、さらっと答える夫に。


「え? あ? う? おぉお?」


 戸惑うは、妻のアカネ。


 雪人の素の返しに慣れておらず。


 ここは、美里が、母として。


「ほらほら、奥さん、旦那様がご所望ですよー」


 ぱんぱん、と、肩を叩き、促がせば。


「うぅ……ちょこっと雪人くんの気持が解かった気がするぅ……」


 普段はグイグイと、前のめりなアカネではあるも。


 イザ、と、なれば。


 しかし。


 お湯の温度と、その想いの温度で、のぼせそうになれば。


「よぉっしっ!」


 ざばっ、と、湯舟から立ち上がり。


 颯爽と浴槽を跨いで出ると、浴槽の縁に腰掛け。


「雪人くんっ、見てっ」


 そんな妻の、アカネの姿から目が離せず。


 


「〇×△□!?」


「痛ぃ痛ぃ、雪人ぉ、いたぁい」


 母の髪を洗っていた手が、思わず、母の頭をぎゅっと握りつける勢いで。


 しかし、そのお陰で。


「ご、ごめん、母さん」


 我に返り。


 アカネも、さっと脚を閉じ、また湯舟へ。


 一瞬ではあったが、はっきりと。


 お互いに。


 お見合い。


 母の髪を洗い終えれば。


「さ、美里ぉ、交代、交代ぃ」


「はぁい。アカネ、髪、洗ったげる」


「はーい」


 と。


 湯舟を交代する際に。


 文字通り、際どい瞬間もありや。


 しかし、すでに。


 アカネはともかく。


 思い起こせば、母たちのそんな姿は、遠い昔に幾度となく見た記憶が。


 その頃と、なんら変わらぬ姿が。


 懐かしいとさえ。


 アカネの変容には驚かされる部分もあるが。


 あの頃からの延長と考えれば。


 互いに、何も恥ずかしいことはなく。


 わちゃわちゃと、髪を洗い合う母娘を浴槽から眺めながら。


 そんな風に思い起こす、雪人の心は。


 湯の温度のよう、穏やかに、穏やかに。



 二次会の前哨戦が、比較的、静かに、静やかに。




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