第93話:アカネのお願い、雪人にお願い
二学期。
夏の終わりから、秋、そして冬へ。
中間試験と期末試験の間には文化祭に校外学習と、学校イベントも盛り沢山。
そこからさらに、冬休みのクリスマスそして年末年始へ向けて。
いや。
遅々として。
「雪人くん、このままのペースだと、クリスマスの『セイなる夜』が『セイ無き夜』になっちゃうよっ!」
なかなか前へ進めないでいる雪人に、しびれを切らす、アカネ。
アカネとしては、早々に着衣を卒業したいと思うも。
雪人はまだまだ、そこまでに思いきりが至れず。
「あ……うん……いや……まぁ……そのぉ……」
煮え切らない雪人に、アカネは。
「雪枝ママじゃないけど、強引に行きたくなるよぉ……」
思案。
どうしたら、雪人がその気になってくれるか。
前に進んでくれるか。
強引に、無理矢理。
それも、手では、ある。
あるが。
そうすると、雪人が。
雪人を傷つけたい訳ではない。
雪人と共に。
夫と共に。
仲良く、楽しく、お互いに
成す為には?
ぐるぐる。思案のアカネが出した答え。
座っていたリビングのテーブルから勢いよく、一度、立ち上がる。
「!?」
雪人も、テーブルの向こうで話を聞いていた母達も驚く勢いで。
すっと、移動して、リビングの床に。
「お願いします、雪人くんっ! どうかっ! どうかっ!」
土下座。
「え? え? えぇっ!?」
いきなりの事に、雪人も、母達も騒然。
雪人は何が起きたのか一瞬わからず。
母達は立ち上がって土下座するアカネを見守る。
「お願いします! お願いします!」
土下座をし、頭を床にこすりつけたまま、アカネが懇願。
母二人は言葉なく顔を見合わせて、頷き合うと。
すっと娘の……アカネの横に並び立ち、そのまま。
すとん、と座り。
アカネと同じように。
土下座。
「お母さん達からもお願いします」
「どぉかぁ、アカネちゃんの願いをぉ、聞いてあげてぇ」
なんだこれ?
何がどうしてこうなった?
雪人は、ぽかん、と。
土下座する三人を椅子に座ったまま見下ろす。
ボクも並んで土下座した方がいい?
いやいや、そうじゃないだろ。
彼女たち……仮初とは言え、妻が。
そして母達が。
ボクに、懇願している?
何を?
そうか……。
去来する、想い。
嗚呼……ボクは……。
雪人は椅子から立ち上がり。
三人の前に立って。
そして。
すとん、と座り、そのまま。
土下座。
「ごめんなさい、アカネ、美里ママ、母さん……顔を上げて」
土下座に土下座で返礼する雪人。
また一歩。
家族の日常が、少し変化して行く。
かも?
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