第92話:ユキちゃんは人気者?



 夏休みも終わり、二学期が始まる。


 学生であるアカネと雪人は夏休み中のようにのんびりともできなくなり。


 学校の友人たちとのひとときもあり、家事や勉強。


 件の練習レッスンにあてる時間も、ままならず。


 週末、休日に、ぼつぼつ、と進捗。


 ただ、まだ、あまり先には進めず。初歩的な部分の反復練習が主で。



 そんなある日の学校で。


 アカネも入った女子数名の一団で、ひとりの少女が何やら雑誌のような本を広げ。


「ねーねー、これ、すごくカワイイと思わない?」


 片隅にある写真を指さす。


 何気なく覗き込んだアカネが。


「ぶほっ!」


 飲んでいたパックジュースを吹き出しそうになる。


「げほっげほっげほっ」


「アカネ、大丈夫?」


「げほげほっ、だ、だいじょうぶ……げほげほ」


 開かれた頁の片隅の少し小さい写真。


 『残念! ボツ作品っ!』と見出し付き。


 黒地に白のレースをふんだんに使ったゴスロリ衣装の少女が、豪華な椅子の座面にしなだれかかり、床に座る写真。


 見覚えのある衣装。


 雪人だとひと目で見てわかってしまって、思いっきり噴き出してしまった。


 表紙をめくって見てみると。



 『LADYレディSNOWスノウ


 『秋・冬は、コレで決まり!』



 雑誌風に仕上げられた、母達の会社のカタログだった。



「この衣装、高くなりすぎて売りにくいからボツなんだって」

「まぁ、確かに、着る人って言うか、着れる人も限られるだろうしねぇ」

「そうよねぇ、ウチらが着たって似合わないかぁ」


 一般的な衣装ではなく、ゴスロリともなると、客層が限られる。


「この衣装もカワイイけど、このモデルのもむっちゃカワイくない?」

「うんうん、カワイイね」


 わいわい、と、カタログを囲んで、女子トーク。


 アカネにとっては、針のムシロ。


「なんでも、このモデルのって、ここの会社のむすめさんなんだって」


「へ、へぇ~~」


 娘じゃなくて、息子なんですけどね! とは言えないアカネは適当に相槌。


 化粧もしているし、ウィッグも着けてるし、雪人本人とバレる事はないだろうけど。


 ひやひや。


「こっちの新作がさぁ、値段もお手頃で、わりといい感じみたいねぇ」

「ほんとだぁ、このデザインでこの値段かぁ」


 と。


 話題が逸れたのを機に。


「あ、わたしちょっとお手洗い~」


 隙を突いて脱出するアカネ。


 もともと、十代少女向けの衣料を中心に製造販売している母達の会社ブランド


 身近な友人たちの目に止まっても不思議では、ない。


 にしても。


 自宅以外でアレを見ると、ちょっとドキっとする。


 写真だけでなく、リアルに3Dで動く現物も、見た事があるけれど。


 なんなら、その衣装の娘とちゅーもしたけど。



 そういえば、一時期、女の装いで過ごしていた雪人。


 今はすっかり男の子に戻って久しく。



「ユキちゃんとイチャイチャ……」



 それはそれで、何か違うものに目覚めてしまいそうな気もしなくはないが。


 試しに一度?


「よし、一度相談して見ようっ!」






「え? やだよ?」


 家に帰って雪人に相談してみるも、一刀両断。



 しかし。



 意図せず。



 実現することに。




 なるかも?





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