第90話:同意書に基づいた行為の報告



 『同意書』に基づいて、初めての『行為』。


 予定では、B01、02、03。


 雪人の部屋。アカネと二人。


 クッションの上、身を寄せ合い。唇を触れ合わせ。


 雪人の手が、アカネの、Bの02の位置。


 ふ、と。


 アカネが雪人から少し離れる。


「んはっ……」


「ん? ど、どうしたの? 嫌だった?」


 アカネが嫌がったのかと、少し不安になり、アカネから手を放す、雪人。


「あ、ちがうちがう、そうじゃなくて、これって、わたしも雪人くんを触った方がいいのかな?」


「あ……」


 盲点。


 B系統の後半やC系統はともかく、B系統前半は雪人がアカネに、との大前提があったが故。


「じゃあ、相互ってことで……」


「おけおけ、じゃあ、わたしも、遠慮なく……」


 再開。


 ちゅー、しながら。


 手は互いに、互いを、文字通り、相互に。


「ん……」


 堪能し合い、一区切り。


「次……?」


「うん……」


 次の一手。


 Bの03。


 本日の、メインイベントとも。


 ごくり。


 ここは、ちゅー抜きで。


 少し離れた位置から。


 アカネが雪人をリードして。手を取り、招き入れる。


「ここ、下から……そっと、ね?」

「う、うん……」


 アカネに導かれた雪人が、アカネの母性あふれるふところに。


「んっ」

「あっ」


 ドキドキが、ハラハラで、ワクワクに。


 いや、もう、何、言ってるんだか、よくわからなくなるように。


 雪人も、アカネも。


 そう。


 触れる、触れられる、接触。


 それは全く初めてと言う訳では、無い。


 日々の、日常の、スキンシップの中で。


 事故的な接触は、ある意味、日常茶飯事で。


 その感触や、については、知っている、ある意味、熟知している筈が。


 意識することで、こんなにも。


「や、柔らかいね……」

「むふー、でしょ? もちょっと強くても大丈夫よ?」


 言葉で誘導されて、少し、手のひらに力をこめてみる。


 着衣の上、複数枚の布越しとは言え。


 伝わる柔らかさ。温度。そして、少し、湿度。


 冷房の効いた室内とは言え。


 行為そのものから発せられる、熱。


 熱に伴う、発汗。


 さらにそこから醸し出されるものに、酔い、酔いしれる、二人。


 アカネと、雪人。


 二人の想い。



「きょ、今日のところは……」


 雪人が、降参ギブアップ


「う、うん。これぐらいに、しといて、やろう!」


 アカネも、もはや、これまで、と。


 初めてにしては、上出来、と、お互いに納得の。


「えーっと、時刻は時刻はっと……」


 アカネが、同意書の報告欄に終了時刻を記入。


「えーっと、えと、計画の通り、っと!」


 予定の通りである旨をにチェックマークを記入。


「ささっ、お母さん達に、報告報告っ」

「あ、ああ」


 またアカネに手を引かれ、今度は、部屋を出て、一階のリビングへ。


 リビングで手持無沙汰に待つ母達の元へ。


「終わったよぉっ!」


 アカネの報告を受ける、母達。


「おぉっ!? 無事だった!?」


 凱旋する娘を歓迎する、母・美里。


「どぉだったぁ!? どうだったぁっ!?」


 普段はあまり感情を表に出さない雪枝も、すこし興奮気味に、息子を迎える。


「うん、ばっちりっ!!」


 アカネが、報告書を母へ。


 母たちは、内容についての感想を求める。


 アカネが嬉々として、答える。


 雪人は、針のムシロ、ではあるも。


 ほろ苦くも甘いひと時を思い返し、悦に入る。


「おっけー、じゃあ、今回は、これで」


 母が報告書に署名サインをして、この場は、一旦。


「この調子で、また次も、ねっ!?」



 夏休みが終わり。


 季節が移ろうのと同じく。


 二人の。


 いや、家族の。


 四人の。


 新しい関係もまた、移ろいゆく。




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