第89話:同意書に基づく初めての行為



 『同意書』


 これから成す行為をあらかじめ申請し、同意の上で、実際の行為を行う。


 行った行為の結果についても報告し、予定通りであったか、別の行為を実施したか。


 互いに確認し合い、齟齬が無いよう。


 また、後日に蓄積されるであろう、データを分析し解析して、行為の得手不得手や好み等の統計を取った上で、その後の進展へと寄与させる。


 雪人にとっても、予定として同意したからには、逃げられない心理的圧力。


 本当に嫌ならば、同意しなければよいだけ。


 同意した以上は、と。



 夏休みも、もう、終わりの頃。


 同意書の内容について、家族で議論健闘を重ね。


 ついに、完成した同意書にそれぞれ署名も記入を終え。


「いよいよ、だね」

「うん」


 アカネが一枚の無記名の『別表』をテーブルに置き、雪人にペンを渡す。


「最初だし、ここからここまで、なんてどうかな?」


 B系列の最初、1から3を示す、アカネ。


「うん、お手柔らかに。あ、『着衣』でお願いね?」


 雪人も『同意』するが、一点、補足的に、脱衣ではなく、着衣で、と。


「えー……」


 服だけに、不服なアカネ。


「まぁ、最初だし、しょうがないかぁ」

「そうよねぇ、最初だしぃ、お母さんたちもぉ……」

「ダメよ、雪枝ママ。雪人くんが緊張しちゃうから、二人でする」

「ぇー……」


 母に痛烈なダメ出しアカネ。


 雪人も、うんうん、と頷く。


「ま、ここは若い二人にまかせてっ」


 美里が、雪枝の肩に手を乗せて、それっぽいセリフで締める。


 今度は不服そうなのは、雪枝。でも、仕方なく納得。


「じゃあ、署名サインしてね」


 雪人が名前を書く。横にはアカネも記名する。


「はい、お母さんも」


「はーい」


 母達に書類が回り、母達が書類に目を通し、名前を記入する。


「はい、確かに。じゃあ、行ってらっしゃい」



 もう数日で夏休みも終わる、そんな休日。


「うん、行こ、雪人くん」


「あ、ああ……」


 アカネに手を引かれ、リビングを出て、二階の雪人の部屋へ向かう。



「大丈夫かしらね?」

「ねぇ……?」


 リビングに残る、母二人。


 子等の、特に、息子の心配。


 また、以前のように、倒れたりしないか?


「まぁ、何かあったとしても、アカネが付いてるし?」

「んー、雪人にもぉ、がんばってもらいたい、しぃ?」



 雪人の部屋で、その息子と娘、二人。


 部屋には鍵をかけて、母の覗き対策。


 ベッドは無いので、並んでクッションに腰掛けて。


「えっと、最初はちゅーから?」

「そうね、一応……」


 ちゅーは、日常の一端として同意書に含まれず。


 都度の同意であったり、不同意の同意の上。


 おはようのちゅー、いってらっしゃいいってきますのちゅー、おやすみのちゅー。これは普通に出来るようになっている故。


「んっ」

「ちゅっ」


 肩を寄せ、頬を寄せ、口先を合わせ。


 一通りの挨拶を交わし。


「えっと、最初は……」

「ここ、だったかな?」


 アカネが雪人の手を取り、B01の位置へ導く。


「んっ……」


 雪人の手のひらが、その位置へ辿り着き、そっと触れる。


「ん……何か言ってよ……」


 さわさわと雪人の手のひらが動くだけで、ぞくぞくとするアカネが焦れる。


 着衣の上とは言いつつ、その場所はアカネのショートパンツからははみ出した場所。


「あ……何て言っていいのか……すべすべ?」


「んーー、まぁいいか……次は、こっちね」


 雪人の手をさらに引き寄せ、B02の位置へ。


「こ、こんなとこ……」


「同意したでしょ? ほら、さっさと触った触った」


 こちらは、衣服越しとは、言え先ほどの場所よりも質感ゆたかな、場所。


 不同意の上で触れば、もれなく叫ばれ、殴られ、下手をすると訴えられて、お縄頂戴。


 だが、今は。


「そうだよね、同意済み、だよね、触っていいんだよね……」


 意を決し、自らの意思で、その場所に触れる。


「んっ……」


 雪人くんに触られてる! 触ってもらってる!


 触れられるアカネの側も、これまでは、押し付けたりした事もあったが、意識的に触れられるのは、初めての感覚に感動を覚える。


 ゆるゆると、ゆれる雪人の手のひら。


 強くはなく、優しい、でも少し焦れったいぐらい。


 直接触られたら、どんなになるんだろう?


 アカネは、さらなる期待に胸を躍らせる。


 でも。


 急いては事を仕損じる。本末転倒。雪人に悪影響があってはいけない。


 我慢をして、今日は、今日の至るべきトコロまでで我慢しよう。


 それでも、雪人にとっては、ドキドキでハラハラの体験。


 おっかなびっくり、なところはあるが。


 アカネの心地よさげな表情に、そのハラハラを少し救われ。


 アカネが楽しんでくれている。


 アカネを喜ばせている。


 その事実が。


 アカネの表情から、アカネの瞳から。


「ん……気持ち、いい、よ?」


 アカネの唇から。


「ちゅっ」


 直接的に、伝えられる。



 そして、本日の、クライマックスへ。



 雪人は無事、最後まで終えられるか……!?




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