第86話:受け、継がれる、モノ



『1.丙壱ならびに丙弐は乙の合意の下、甲と乙の特定の行為を見学または行為に参加できるものとする。』


「これはどういうことかなぁ?」


 母達が作った『同意書』の、小さな小さな文字をモニタに最接近して読んだアカネ。


 この文章を指さして母にその内容を、問う。


「いや、ほら、あれよ、あれ」

「そぅそぅ、ちゃんとできてるか、心配だしぃ、なんならアドバイスも直接ぅ」


 しどろもどろに母達の言い訳。


「ってゆーか、何よこの『乙の合意』って。『甲』どこ行った? 乙って誰?」


 アカネの素朴な疑問。


「乙は、アカネだね」


 母・美里の回答にアカネは。


「いや、雪人くん怒るよ、それ……」


「かなぁ?」


「せめて、『甲と乙の合意』にした方がいいんじゃないかな、と」


「見学と参加はいいんだ……?」


「それは、まあ、うん。時と場合によるけど、失敗しないようにアドバイスもらうのはアリかなぁ、って?」 


 と、言う訳で。


「いずれにせよ、そこも含めて、雪人くんに説明して、それこそ同意を得ないと、ねっ!」


 内容的にはこの通り、雪人に説明し、説得しに行こう、と、するが。


「そういえば、さ」


 アカネが、ふと、思い付いた疑問を、母達へ投げかける。


「わたし達って、母娘おやこでこんな話を平気でしてるけど、お母さん達もお母さん達のお母さん……お祖母ばぁちゃんとこんな話、してた?」


「んー、したこと無い、わねぇ」

「うんうん。無いね」


 母達、二人とも、即答。


「やっぱり……ウチ、かなりオカシイのかな?」


 母二人、顔を見合わせて、頷き合って、答える。


「そぅねぇ……」

「……そう、かも?」


「やっぱり、か」


 苦笑する、アカネ。


 でも、そういえば。


 女子で言えば『初潮』の事で母親のサポートを受けることもあるだろう。


 アカネも、かつて。でも、その時は。


 『月経』そのものの事や、処理、処置、手当のやり方とか現実的な話が主で。


 『赤ちゃんがどうやって?』までは。



 学校が始まったら、猥談の中でこっそり、友人たちにも聞いてみようか?



 答えは、なんとなく、解かっているが、念のため。


 そんな考えから、頭の中で、さらに連想を広げる、アカネ。




 先人たち。


 ご先祖さまたち。


 直系のご先祖さまのみならず。


 世の、中の、人々、全て、とは言わずとも。


 その多くは。


 どうやって、そういった行為についての技術ノウハウを受け継いで来たのか?



 なんらかの形で、受け、継がれる。



 密やかに行われ、密やかに受け継がれる。



 あるいは、遺伝子のレベルで、本能的に受け継がれるものなのか?



 しかし、だからこそ。



 ヒトは、ここに在り、ここに至り、地に溢れ、文明が築かれ。



 ヒトを成す、いしづえとして。





「……アカネ? アカネ? どうしたの? ぼーっとして」


「あ」


 母の呼びかけに、現実に戻る、アカネ。


「ん、ちょっと、ね」



 さぁ、雪人を篭絡しに行こう!



 でも、その前に。


「おなかすいた……ごはん……」


 すでに陽も落ち、結構いい時間になっていた模様。





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