第46話:深夜のコンビニで買うモノは



 季節は、春を終え、梅雨も明けて、夏。


 七月と言うのに、すでに猛暑か猛暑に近い暑さ。


 暑い暑いと言うと、余計に暑くなってしまうが、本当に暑い。


 冷房が無いと、寝苦しいと言うか、もう、眠れない。


 そんな深夜。


 皆が、寝静まった頃。



 こっそりと。


 玄関を、音を立てずに開け閉めして。


 出かける、人影。



 雪人。


 いや。


 ユキ。




 何故こんな夜更けに?


 しかも、雪人ではなく、ユキの格好で。


 柄入りの白いワンピースに、カーディガン。ロゥソックスにシューズはアカネのスニーカーを拝借。


 そして、何処へ向かう?



 ユキの向かった先は、コンビニ。



 昨夜。


 アカネに。


 雪人のパンツが欲しい、と言われた時に、『コンビニで買ってきたら?』とアドバイスしたが。


 結局、手持ちのお古を強奪された。



 そして、その時、雪人はふと、思った。



『アカネが男子体験するなら、ボクも、女子体験してみる?』



 いやもう、すでに。


 かなり体験済みではあるのだが。


 しかしまだ、手を出していない部分があった。



 そして、それは意外にも。



 ピン……ポン……



 コンビニエンスストアの自動ドアが開き、来客を知らせるチャイムが鳴る。


 若干の後ろめたさのある雪人は、深夜の静けさの中に響くその音に、一瞬ドキリとする。


 平常心平常心。


 ボクは女の子。ボクは女の子。


 唱えるように、心の中で。



 だけだと、なんとなく不安感。


 も含めて、適当に飲み物やお菓子もカゴに突っ込んで。



 そうだ、この際だから、ついでだからと勢いで。



 この先に必要になるだろう、も、無造作にカゴに突っ込んでおく。


 どんなものなのか、見ておきたいし、見ておく必要もあろう。



 そう、自然に、極々、自然に。


 これくらい、当たり前のことだよね?


 と、自分に言い聞かせ。


 流れ出る汗は、熱帯夜の暑さのせいだと割り切って。


 ハンカチも持って来ておいてよかった。


 汗をふきふき。



 レジに到着。


 幸い?


 他に客もおらず。


 店員呼び出しボタンを押すと。


 眠そうな店員……若い男性……が、レジに現れる。


「らっしゃっせ……」


 眠たげな、だけど派手そうな金髪のお兄さんが。


 ユキの姿を見た瞬間に。


 目を見開いて。


「い、いらっしゃい!」


 突然、テンションが上がる。


 勢い、カゴの中から商品を取り出して、バーコードスキャン。


 スキャン。


 スキャン。


 スキャン。


 スキン!??


 商品とユキの顔を交互に何度も見比べて。


 増々テンションを上げる、金髪店員。


「レ、レ、レ、レ、レジぶぶぶぶ袋はごいりようですか?」


「はい、おねがいします」


「さ、三千六百十五円……になります」


 財布から取り出した現金、丁度。


「ちょ、ちょ、丁度、イタダキマス」


「あ。袋詰めは自分でやります」


 と。


 平静を装いながら、若干震える手で、どうにか。


「あり、ありあとやしたぁ」


 金髪店員の元気な挨拶が、静かな店内。静かな町に響く。


 そそくさ退店。


 ピン……ポン……


 チャイムも追いかけ、鳴り響く。


「ふぅ……」


 店を離れて、ようやく一息。


「帰ろ……」


 一仕事ミッション終えてコンプリート


 眠気も襲ってくる。


 明日も学校。


 早く帰って。


「寝よ……」




 

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