第45話:本来の用途以外での使用はお控え下さい



「そう言えば、雪人くん」

「ん? なに?」


 夕食の料理をしながら、キッチンで。

 アカネに何やら疑問。


「言葉遣いは男の子のままなのね?」

「あー……うん。さすがに、そこまでは?」

「まぁ、もともと、そんなにオレオレ風じゃないか」

「オレオレって……」


 詐欺師じゃないよ?


 そういえば、雪人の一人称は『ボク』だったか?


「ボクっ娘風で、これはこれで?」

「そういう事にしておいて?」


 とか、話しながら夫婦(仮)揃って、てきぱきキッチン。


「そういえば」

「ん?」


 今度は、雪人の方が。


「女の子って、よくこんなの毎日ずっと着けてられるよね……」

「??」

「アルバイトの時は短時間だったから、そんなにも思わなかったけど、ずっと着けてると、肩やら背中やら違和感が」

「あぁ、ブラね」

「うん」

「まぁ、こればっかりは、慣れ、だねぇ」

「だよねぇ……」


 そんな、純朴な疑問と意見。


 性差の実体験。


「だったら、わたしも、男の子の服、着てみようかな?」

「え?」

「上は、まあ仕方ないとして、下、パンツ、貸して?」

「ぇー……ヤだ……」


 ブラを借りてる、とは言え。


 さすがに、下はちょっと?


 そんな話もさらっと流した筈ではあったが。


 母達が帰宅し、夕食も終え、順にお風呂も済ませた後。


 コンコン


「雪人くーん」

「はぁい?」 


 アカネが雪人の部屋を訪れ。


「パンツ貸してー」

「えぇー? 本気だったの?」

「うん。男の子体験、してみたーい」

「マジ?」

「まじ」


 うーん。


 と、うなる雪人。


「コンビニで買ってきたら?」

「そこにあるのに」


 と、扉から、室内のクローゼットを指さす。


「いや、ありはするけどさ……」


 それは違うだろ、と思う雪人。


「一枚ぐらいいいじゃん?」

「よくないよ?」

「ぇー」


 押し問答。


 結局。


 一回だけ、お試しで。ちゃんと洗って返すから、と。


 アカネが押し通し。


「どれがいいかなぁ」


 部屋に入ってクローゼットの中を物色するアカネ。


「あんまり見ないでよ……」

「これにしようかなっ。この変なドクロマークのやつ」


 黒地に白のドクロマークが散りばめられたトランクス型のものを選ぶ。


 雪人はトランクス派の模様。


「ふむふむ。穴の開いてるこっちが前か……」

「広げて見ないで……」


 さすがに、下着を広げてしげしげ眺められるのは、恥ずかしい。


「んじゃー、これ、借りるねー。ありがとー」


 るんるん、と、帰ってゆくアカネ。


「……」



 自室に戻ったアカネ。


 さっそく、借りたパンツを装着してみる。


「……なんか普通にショートパンツな感じもする」


 上にTシャツを羽織ってみると。


 よく見なければ、ぱっと見は確かに違和感はないかもしれない。


「さすがにこれで表に出る勇気は無いけど」


 触ってみると、生地が全く違って心もとない。


 それに何より。


「ふむふむ。前の方に空いてるこの窓から……はっ!」


 窓の用途を思いつつ、の発想を得たアカネ。


 早速。


 その窓の使を試してみた。



 結果。


「はぁ、はぁ……これは……なかなか……イイかも……?」


 満足の行く結果が得られた模様。


 ただし。


「あ、やば。洗濯しないと!」



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