第42話:がんばれユキちゃん



 リビングで女性陣三人での会議を終え、少し休憩した後、夕食の準備は母二人。


 寄り道して電車で帰ってくると言う雪人にアカネが携帯でメッセージを送る。


『寄り道って、何? お買い物?』

『今は内緒』

『えー。後で教えてくれる?』

『帰ったら、ね』


 それからしばらく後。


『今、近くの公園あたり』


 雪人からアカネにメッセージが入る。


『はーい』


 後数分。


 よし、お出迎えしてあげよう、と、アカネは早々に玄関へ。


 その玄関の扉が開き。


「ただいま」

「おか……えっ!?」


 グレーのキュロットに黒タイツ。白いブラウスの上から水色のカーディガン。


 その姿に不意打ちを喰らったアカネが一瞬、硬直する。


 その一瞬を突いて。


 ユキがさっとアカネを抱き寄せて。


 そっと。



 ちゅっ



 軽く、ごくごく軽く、口付けて。


「ただいま、の、ちゅー、だよ」


 さらっと、そう言ってリビングへ向かう。


 衝撃のコンボにアカネ、硬直フリーズ



「雪人ちゃん!? 何、それっ!?」

「雪人ぉおおお?!」


 リビングから、悲鳴にも似た、母達の声。


「!?」


 その母達の声で我に返ったアカネもリビングへ。


 女性陣三名に取り囲まれる雪人は。


「とりあえず、お腹すいた……ご飯食べながら説明するけど、先ずは着替えてくるね?」


 と、自室へ。



 普段の部屋着に着替えてリビングに戻り、食事。


「そのままでもよかったのにぃ、カワイかったわよぉ」


 実母が息子に言う台詞ではなさそうではあるが。


「あの格好で電車に乗って帰って来たの?」


 美里の素朴な疑問。


「さすがにそこまでは。近くの公園のトイレで着替えたんだよ」


「でも、なんでまた自主的に?」


 アカネも思う。


 状況的には先日の試験の時と同じだが、今回は特に課せられた、課した訳ではない。


「えっとね……」


 雪人は、自らの想いを告げる。


 自身で理解している、この先の道筋ロードマップ


 停滞、後退はならず、あくまでも、前進あるのみ。


 より、明確に、進む為には?


 それは、計らずも女性陣が立てる計画に遠からず、等しい。



「でも、まだちょっと躊躇ためらいがあるから、さ」

「女装すれば、それが軽減できるって?」

「うん、だから部屋着もそれっぽいの欲しいから、明日の放課後に付き合ってもらえる?」

「全然オッケー。行こう行こう!」


 と、明日の予定もついでに決定。


「なんなら、学校もわたしの予備の制服で行く?」

「いやいや、さすがにそれはまずいでしょ」

「んー、残念!」


 などと言いつつ、食事も終え。


 休日の夜を過ごし、そろそろ就寝。


「パジャマも要るよね? どうする? わたしの、貸そうか?」

「お願いしていい?」

「ん。ちょっと待ってねー」


 アカネが自室に戻り、パジャマを持ってくる。

 淡いピンクの、女の子らしいパジャマ。

 幸い、二人の体格は似ている。ゆったりしたパジャマなら十分に共有シェアできる。


「こっちの方がいい?」

 そんなアカネ自身は、キャミソールにホットパンツ。


「普通のでお願い……」

 普通とは言え、少女向け。


 受け取って、一旦自室に戻って着替えて。


「なんか、わたしより女の子っぽいのが、悔しい……」


「あはは……じゃぁ……」


 言いながら、アカネを抱き寄せる雪人。


 アカネも、今度は不意打ちではなく、理解した上で。



 ちゅっ


「おやすみ、アカネ」

「おやすみ、雪人くん」


 ちゅっ


 もう一度、今度は、アカネから。


 雪人もそれを拒まず、受け入れる。


「じゃっ」


 小さく手を振り、互いに自分の部屋へ。



 何時いつまでになるのかは判らないが。



 雪人の、ユキとしての生活が、はじまる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る