第41話:がんばるユキちゃん
「美里ママ、ごめん。今日は帰りにちょっと寄り道したくて、一人で電車で帰るから」
『そう? わかったわ。気を付けて帰って来るのよ?』
「うん、わかってる。じゃ、また後で」
アルバイト先で、今日のお仕事を終えて、雪人。
いつもなら、美里に車で送迎してもらっているが。
今日は。
「これ、ありがとうございました。貰っちゃって……」
「いいのいいの! ユキちゃんの頼みだし、今回は量販向けの廉価版だから、値段もそんなに高く無いしねっ」
「あはは。助かります。じゃあ、お疲れ様でした。お先に失礼、します」
「はぁい、ユキちゃん、お疲れ様。またねー」
ユキちゃんじゃないよー、と思いながらも突っ込まず。
そそくさと仕事場の撮影スタジオ風の会議室から出る。
アカネと母達、女性陣三人が。
何やら、色々と画策して雪人に試練を課して来ているのは明らかで。
母達の望みを叶えるべく。
雪人自身も変わらなければ、との思いが。
いや、ある種の強迫観念か?
下手をすると、パワハラかセクハラか。
殻に閉じこもって、逆効果になり、トラウマにもなりかねなかったりするが。
持前の頭脳を活かし。
解決策を模索する、雪人。
前回の試験で、光明を見出した。
今後、母達の、アカネの希望する『目的』を達成するために。
今日、アルバイトの帰り。
繁華街へと繰り出して、あらかじめ調べておいたお店へ……行く前に、駅のコインロッカーに荷物を一旦保管。
アルバイト先で貰った大荷物を抱えてショッピングは面倒。
コインロッカーとは名ばかりで。
コイン……硬貨を使ったロッカーは、この駅には存在しない。
スマホ決済、交通系カード決済。
それはまあ、どうでもいいとして、ロッカーに荷物。
そして、目的のお店へ。
「んと、これと、これと……これも必要だよね」
一軒目であれこれ。
「次は……あっちか」
二軒目でも必要なものを購入し終え。
駅でロッカーから荷物を回収して、買った荷物と合わせて持って。
久しぶりに電車に乗って、帰宅しつつ。
電車に揺られながら、雪人は思う。
アルバイトである程度慣れているとは、言え。
しかし、先日の試験の時は、家でその装いを身に纏い。
はっきりと、『変われた自分』を感じる事が出来た。
これは、余興ではなく、目的を達するための手段。
そう割り切る事で。
おそらく、母達やアカネに相談しても、問題は無いだろう。
手伝って貰って、補助してもらう事も、可能。
だが、しかし。
やはり、自らの手で、自らの意思で。
己が力で成し遂げたいと思うのは。
やはり、オトコとしての矜持だろうか?
「そんなに難しい話じゃ、無いはずなんだけどな」
電車の窓に映る苦笑する自分の顔を見ながら。
そんな風に感じる、雪人。
さて。
自宅の最寄り駅に到着。
電車を降りて自宅への帰路。
その途中にある公園の、トイレの個室へ。
荷物を一部、開封して。
「これがいいかな?」
アルバイト先で入手した衣装。
「っと、次は……」
メモを片手に、購入したばかりの荷物も開封。
メモの手順の通り。
「最後に……と」
もう一つ、これも購入したばかりのもの。
「あ……しまった。ブラシが無い……仕方ない、手櫛でなんとか……」
姿見が無いが、手鏡で仕上がりを確認し。
「ん。よし、行くか」
行くんじゃなくて、帰るが正しいが。
気持ち的には。
これから、勝負に行く覚悟。
さぁ、がんばれ雪人。
いや。
がんばれ、ユキちゃん!?
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