百合の母達が子等に乞い願う・ピュア

第36話：お帰りなさいの、ちゅー

　母二人から『土日に』と言われていた『アカネにキスをする』テスト課題。

　土曜日は緊急のアルバイトで潰れてしまったが。

　そのアルバイトの中で光明を見出した、雪人。

　美里に協力を仰いだとは言え、テストに利用するためのアイテムも入手。

　今日、日曜。

　タイミングを見計らって、アカネにキスを、と画策する雪人。

　しかし、朝からは普段の日曜と変わらない過ごし方。

　普段と違うのは、アカネも雪人も緊張気味なところか。

　アカネは『いつ来るか？』と期待に緊張し。

　雪人は『上手く事を運べるか？』と緊張する。

　母二人に於いても、同様。

　雪枝は『いつ始まるか？』にワクワク。

　美里も『自然にできるか？』とドキドキ。

　昨日のアルバイトの帰り道、車中で雪人は美里に今日の段取りの手伝いをお願いしていた。

　朝食、その後の家事。

　昼食、その後のくつろぎの時間。

　雪人とアカネは、二人、リビングでゲーム。

　アカネは『デートに誘ってもらって、デート先で……』と想像したりもしたが、肩透かし。

『ゲームしながら不意に、とか？　それはそれで良いかも？』

　などと、アカネはアカネで色々と妄想を膨らませる。

　そして。

　そろそろ夕食の準備に取り掛かろうかと、雪枝と美里の母二人。

　美里がキッチンで声を上げる。

「あら大変。サラダのドレッシングが切れてるわー。アカネ、ちょっと買って来てくれない？」

「えー、いいけど。雪人くん、行こっ」

　イヤそうにはするが、素直に聞くアカネ。

　しかし美里が。

「ダメよ、雪人ちゃんにはお願いしてる事があるから、アカネ一人で行ってきて」

「ああ、そうだったね、美里ママ」

　雪人が美里のお願いに答えるべく、リビングを出る。

「ぇー。しょうがないなぁ……ブツブツ」

　アカネもブツブツ言いながらも買い物へ。

　近所のスーパーマーケットまで自転車で数分。買い物時間を入れてもそんなに時間はかからない。

　雪人は自室に戻り、急ぎ着替える。

　そう、昨日借りた衣装に。

　姿形（すがたかたち）の変化に、心理も追従して変化できるなら。

　男女の口付けに忌避感があっても、女性同士なら？

　母親二人の甘々なコミュニケーションを見て来た雪人。

　それこそ、幾度となく母達が口付けを交わす姿を見て来たため。

　違和感は薄れているが、男女の、となると、未知の感覚。

　未知なるものへの恐怖。

　それが。

　自身が女性化することで、緩和されるのなら。

　特に、この衣装は普段のアルバイト衣装よりも、より女性らしさ、女の子らしさが強調されている。

　これなら。

　コンコン

「雪人ちゃん。アカネ、もうすぐ帰ってくるわよ」

　部屋のドアがノックされ、美里が声をかけてくれる。

「ありがとう、美里ママ」

　急いで部屋を出て、一旦リビングへ。

「雪……人……？」

　キッチンで調理中の母・雪枝が変わり果てた息子の姿を見て硬直する。

「母さんも、来て」

　硬直した母の手を取り、もう一人の母・美里と三人で玄関へ向かう。

「ただいま！」

　玄関の扉を開けて、アカネが戻る。

「おかえり、アカネ」

　迎える、雪人。

「え？　え？　誰？」

　突然、自宅に現れた美少女。

「え？　雪……人？」

　一瞬、何が起きたのか？　思考が硬直して身動きできなくなるアカネ。

　そのアカネの頬にそっと両手を添える雪人。

「え？　え？」

　目を見開いて目の前に迫る夫（﹅）の顔を凝視。

　……いや、これは、夫？　嫁？　え？　わたしが夫？

　ぐんぐんと迫る雪人の表情は、少し緊張していて、眼を閉じて。

　アカネの方は、何がなんだか解らないまま、眼を見開いて。

　軽く、ほんのわずかに。

　唇と、唇が。

「！？！？」

　そんな当人達をさて置いて。

「あらあらぁ、まぁまぁ！」

「んふふっ」

　外野が先に声を上げると。

　雪人は、そっとアカネから離れ。

　頬を紅く染め、恥じらいながら。

「おかえり、の、ちゅー、だよ」