第35話:テストの準備は万全に
アルバイトの衣装撮影を終えて。
今日使った『ゴスロリ風』の衣装を譲ってもらえないか、と、撮影スタッフに尋ねる雪人。
「うーん、これ、イベント企画用の一点ものだから、譲る事はできないんだなぁ。商品化された後なら、買ってもらえるけど」
今日明日、土日だけでいいので、借りられないか、と食い下がる雪人に。
「んー、副社長に確認してみないと、何とも……」
副社長……美里ママ。
ちょうど今、車で迎えに来てもらっているところ。
「もうすぐここに来てくれるんで、聞いてみますね」
しばらくして、副社長・美里が到着。
到着早々、雪人は美里に。
「美里ママ、ちょっと相談が……」
「え? 何?」
本当なら、美里にも内緒にしておきたかったが。
自分ひとりで実行するのが難しいと判断して、美里にも協力を仰ぐ事に。
他のスタッフには聞かれないように、と、着替え用のスペースへ。
そこで美里に事情を説明する。
そして。
「わかったわ。衣装は貸してあげる。明日の夜には回収させてもらうわね」
「うん、美里ママ、ほんとにありがとう。それから……」
「ええ、雪枝さんとアカネには、内緒、ね」
「よろしくお願いします」
ぺこり。
親しき中にも。
母親であっても。
母親であるが故に。
きちんと、礼。
美里が詳しい事は伏せつつも、スタッフに事情を説明して衣装を受け取る。
底上げ用のインナーとウィッグも。
帰りの車中。
もう少し詳しく『作戦』を美里に語る。
試験の出題者に先に答えを提示し、さらには協力を求めると言うのも、本末転倒のような気もするが。
背に腹。
美里も無下にせず、むしろ内容に興味を持って協力を惜しまないと約束してくれた。
ただし、最終的な実行は雪人単独の力。
美里も試験の評価は実行結果を見て判断することに。
車は何事もなく自宅ガレージへ。
借りた衣装は、家に持ち帰って怪しまれるのを避けるため、一旦、車の中に保管。
後で『車に忘れ物をした』と、取りにくればいい。
「ただいま」
「お帰りなさい」
母とアカネが出迎えてくれる。
「お帰りのちゅー、する?」
アカネが、早速キスの催促。
「しない」
まだ、その時では、無い。
「わたしはいつでもいいよ? うえるかむだよ? ばっちこいだよ?」
期待に胸膨らます、アカネ。
「明日には、必ず……」
期限は明日の日曜日中。
心の準備。そのための準備が必要。
普段と同様に夕食や入浴を済ませ、普段の通りくつろぎの時間を終え。
皆が寝静まった頃。
予定通り、車に残した衣装を回収する雪人。
衣装を手に部屋に戻り、念のため一人で着替えられるか試してみる。
一度着ているので、特に問題はなさそう。
念のため、スマホのカメラをセルフタイマーにして、全身を撮影してチェック。
前後左右から撮った自分の姿を確認して。
メイクはしていないが。
メイクさんの言葉を借りれば『ほぼそのままでも通用する』らしい。
「これなら、いけるわよね」
悦に入る、と言う訳ではないが。
決意を新たに。
決行は、明日!
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