第16話:雪人オオカミ化計画(後編



 雪人オオカミさん化計画。


 雪人とアカネを別室にしよう、と、母二人の提案。


 個人的パーソナルな空間において、抑圧されたモノをすることが出来るようになる、と。


 それは雪人だけではなく、アカネにとってもメリットをもたらす。


 『一人で思う存分可能』


 液晶モニタに映し出された、母からの提案。


って、何っ!?」


 しかも、一人でって?


「ほら、二人ともさすがには結構気を使って、お互いにバレないようにシてるでしょ?」


「寝ている雪人の横でぇ、息を殺してぇ、こっそり、シなくてよくなるのよぉ?」


「トイレに籠らなくてもよくなるし」


「誰か帰って来るかってぇ、ビクビクしながら、シなくて済むしぃ~」



 母達の解説にアカネが、ピンと来た。



「あ……そういう事か……それは、まあ、確かに……」



 肌を曝したり、ボディタッチも厭わないとは言え。


 越えられない一線、と言うものも、確かに存在する。


 ひっそりと、個人的に、秘め於くべき事柄。


 アカネに於いて、おや。



 ん? 今、何か、スルーしちゃいけないセリフがあったような?


 アカネがその違和感に気付く。


「ちょ、お母さん、雪枝ママ、どうしてそれを!?」


 寝ている雪人の横で、とか、トイレで、とか、誰か帰ってくる前に、とか。


「お母さん達だって、女よ? アカネちゃんの考えてることとか、行動とか、手に取るようにわかっちゃうわよ」


「ぁぅ……」


 考え込むアカネに、雪枝がひと押し。


「それに、あと二年、結婚するまでの辛抱だしねぇ~」


 美里も、さらにあと押し。


「また別に相談する事になるけど、多分、一年ぐらい前倒しできると思うよ? だから実質、一年間辛抱して、その間に雪人ちゃんをオオカミ化しましょう、って事」


「一年かぁ……ひとりかぁ……寂しいなぁ……でもなぁ……」


 葛藤するアカネ。


 そこへ。



 ぶるるるる



 テーブルに置いてあるスマートフォンが鳴動する。


「あ、私だ」


 美里が電話に出る。


「もしもし? あ、雪人ちゃん? ん。終わりそう? ん、分かった。迎えに行くねー。じゃ、後で」


「雪人、アルバイト終わりぃ?」


「うん、もう終わるって。迎えに行ってくるね……と、その前に……」


 美里はアカネに向き直って。


「来週の週末、部屋の模様替えするから、雪人ちゃんが戻ったら打ち合わせね」


「えー!? 決定なの!?」


「決定よ」


「会議とわっ!?」


「じゃ、行って来るわね」


 抗議のアカネを無視して、美里は外出の支度を整える。


 雪枝がその美里に近寄って。


「行ってらっしゃい~、気を付けてねぇ~、晩御飯、用意して待ってる。ちゅっ」


「あー、またチューしてるっ!」


 さらに抗議のアカネ。


 もちろん母二人には、スルーされる。



「さぁ~、アカネちゃん。一緒に晩御飯の用意、しましょうかぁ~」


「ぇー……」


「しましょうかぁ~」


 圧っ!




 もちろん、母は強し!

 


「……はぁーい……」






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