第17話:げふんっげふんっ
雪人がアルバイトを終え、美里の車で帰宅、早々。
「雪人くん雪人くん雪人くん! お母さん達、ヒドいのよっ!」
突撃、アカネちゃんを受け止めながら、雪人。
「うん、美里ママから聞いたよ。別々の部屋に移るって」
「そうなのよ! 夫婦なのに、別々にって、ヒドいよね?」
雪人をぎゅーっとしながら、アカネ。
「いや、まだ、夫婦では無い、よね?」
「それはそうなんだけどさー。もう、夫婦も同然じゃない?」
アカネの背に手を回し、抱き寄せながら、頭を撫でる。
「同然ではあっても、そうではない、かと?」
「むぅ~……」
ぱんぱん
「さぁ~、二人とも。晩御飯、よぉ~」
雪枝が二人の背中をそれぞれ叩いて移動を促す。
会議で使ったパソコンと液晶モニタも片付けられ。
食事の並ぶ食卓で。
「と、言う訳で、来週の土日で部屋移動、模様替えするからねー」
「はい」
「……」
「今の寝室をぉ、雪人の部屋にしてぇ、勉強部屋の方をぉ、アカネちゃんの部屋にするからぁ~」
と、食事をしながら、雪枝の説明が続く。
「ダブルベッドはぁ、解体してレンタル倉庫にぶち込むからぁ~」
二年しか使わないから、新しくシングルベッドを買うのももったいない。
ちょっと不便ではあるが、布団を敷く事に。
「……アカネは完全に万年床になりそうだね」
「!」
そして勉強部屋の二人の机。ベッドを除けた寝室側へ雪人の机を移動。
ベッドの解体や机の移動には引っ越し業者を手配していた母達。
「え? ベッドの解体ぐらいならボクでもできそうだけど?」
「どのみち倉庫までの移動にぃ、トラックが必要だしぃ」
「トラックをレンタルすれば?」
「その手があったわねっ!」
「さすが、男の子!?」
それはさておき。
アカネは思う。
雪人と離れ離れになるのは嫌だ。
でも。
提示された『メリット』を考慮した場合、アカネにとってもある程度、得策であるとも思える。
それに、部屋を別々にしたところで実際には……、とアカネは考えている。
「むふふっ」
「ちなみに、雪人ちゃんの部屋には、鍵も付けるからね。アカネが夜這いできないように」
「ぶほっ! げふんっげふんっ」
盛大に噴き出してむせるアカネ。
「大丈夫?」
隣の雪人が、アカネの背中をさすりながら、お茶を差し出す。
「もう、そういうところよ? アカネ。ちょっとは女の子らしくお淑やかにしないと、雪人ちゃんに愛想を尽かされちゃうわよ?」
「げふんっげふんっ」
さらにむせる。
「大丈夫?」
さらにアカネの背中をさすってあげる雪人。
「雪人の方が、絶対女子力高い、わよねぇ……ホント、育て方間違っちゃったかしらねぇ~?」
ぼそっと、雪枝。
「げふんっげふんっげふんっ!」
…………
「ぜぇぜぇ、はぁはぁ……あー、死ぬかと思った……」
「死ぬな、アカネ」
「死なないわよっ! 雪人くんの子供産むまでは!」
「産んでからも、死んじゃダメだよ?」
きゅんっ!
「げふんっ! げふんっ!」
「げふんっ! げふんっ!」
「げふんっ! げふんっ!」
女子三名、げふんが止まらない。
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