第7話:料理もしないと、ね



「今日は何作るの?」


 桃色の可愛らしいエプロンを着けながら、アカネがキッチンで雪人に。



 リビング・ダイニング・キッチン。


 リビングとひと繋がりで、リビングの方を向いて調理作業が行える。


 広く、明るい空間。


 家族の、憩いの場であり、コミュニケーションの場でもある。




「んー、肉じゃが?」


 薄緑色のシンプルなエプロン装着済みの雪人が、ジャガイモを左手に、包丁を右手に、答える。


「何故、疑問形」


 アカネもひとつジャガイモを取り上げる。


「包丁使うの、上手よねぇ、雪人」


「ん。慣れ、だね」


「わたしはコレじゃないと、包丁は怖いなぁ……」


 アカネは、ピーラーを右手にしゅるしゅる、とジャガイモの皮を剥く。


 雪人は、包丁で。


「あと、ジャガイモの芽の引っ込んだ部分とか、ピーラーじゃ取りにくいでしょ? 包丁だと、この、お尻のとこ、『アゴ』の部分で、こうやって、クリっと……」


 実演して見せる雪人。


「ピーラーでもできるよ? ここんところ、横っちょにある、出っ張った『耳』の部分で……」


 クリっ、とピーラーを捻じるようにして、ジャガイモの芽を取ってみせるアカネ。



「……便利だね?」


「でしょ~」


 佐川(雪人)流と相本(アカネ)流。


 長く一緒に暮らしているとは言え、母二人が出会ったのは成人して社会人となった後。


 それまで、二人の母は全く別の家庭で、別の暮らしをしていた。


 故に、互いに、異なる文化がある。


 しかし。


 共通する文化もある。


 互いに母子家庭であったが故、幼い頃から母に変わって家事を行っていた息子、娘。


 その意味では、二人とも料理自体は苦手ではないが。


 包丁一本でこなす、佐川流。


 便利なアイテムを使い分ける、相本流。


「使ってみる?」


 アカネが、相本流を薦めるが。


「いや、ボクはこっちの方が慣れてるから」


 包丁を掲げる雪人。


「ん。ま、いっけど」


 主張は、する。


 でも、強制は、しない。


 互いが、互いの個性を認め合う。


 それが、いい。


 それで、いい。


 二人が、いや、四人が、長く、仲良く過ごせているのも。


 それがあるから、かもしれない。




「よーっし、わたし、お米するねー」


「ん。頼んだ」


 アカネが、お米をとぐ。


 雪人は肉じゃがの仕込みに入る。


 広いキッチンは、二人で動き回ってもお互いに邪魔にはならない。


 


 エプロンの下。


 シンプルな無地の白いTシャツと、デニムのホットパンツ。


 お揃い。


 ペアルックだが、エプロンはピンクとグリーンで男女の違いを醸す。


 雪人の髪が短いのでギリギリ男女の区別は付いているが。



「んふー。こんな風にしてると、新婚さん、みたいだね?」


「……かな?」


 正式な婚姻はまだ先、だが。


 二人で一緒に家事をしたり。


 一緒に寝たり。


 一緒に暮らしている、今。


 もう、結婚したも同然じゃないか?


 でも。


 一線は守っている。


 正式に結婚してから、の部分。


 それは、さて置き。


「さ、母さんたちが帰ってくる前に、仕上げちゃおうね」


「はいはーい。米終了~、ぽちっ」


「あ、肉じゃが仕込んだら、ブリ照り行くから、冷蔵庫から出しておいて」


「あいよー」


 仲睦まじく。







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